侯爵令嬢は前世で冷酷夫だった皇太子に挿入られている最中に思い出す

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第三章

21 告白②

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 「ローランへは行かないで下さい。」

 強い意志を宿した瞳がクロエへ向けられている。
 いつも笑顔で冗談ばかり言っている幼馴染みのこんな表情は初めて見る。
 
 「いきなりどうしたの……何だか今日は変よエクセル。」

 クロエは努めて明るく話し掛け、この妙な空気を散らそうと試みる。
 しかしいくらエクセルの笑顔を引き出そうとしてみても彼の表情がいつものように緩むことはない。
 それどころかクロエが明るく振る舞えば振る舞うほどエクセルの表情は苦々しく歪み、眉間の皺は深くなって行った。

 「……俺は卑怯者です。」

 「卑怯?あなたのどこが卑怯なの?今までだって何事にも正々堂々と取り組んで来たじゃない。」

 卑怯な行いはこの男が何より嫌う事だ。
 それをよく知るクロエは首を傾げる。 

 「いいえ。俺は待ってたんです。」

 「待ってた?何を?」

 「あなたが俺を欲しいと言ってくれるのを。」

 「……え……?」

 「憶えていますか?俺と初めて出会った日の事を。俺は今でも昨日の事のように思い出せる。」

 あれはアドラー公爵家の嫡男として初めて皇帝陛下に謁見する日だった。あの日の俺は由緒正しきアドラー公爵家の次期当主として、周りに自分の存在を認めて貰えたという高揚感に浮かれていた。
 しかし謁見の間へと足を踏み入れ、陛下の隣に立つ少女を見た瞬間、比喩じゃなく心臓を撃ち抜かれたような衝撃に見舞われた。
 一輪の花のように凛とした佇まいで俺を見ていたのは、美しく波打つ豊かな金色の髪に零れ落ちそうなほど大きく輝く青い瞳。思考の停止した俺は目の前のその人が皇帝陛下と皇后陛下の間に生まれた第一皇女クロエだと気付くまでしばらくかかった。
 そんな調子だったからその日陛下からどんな言葉を賜ったのかもよく憶えていない。激しい動悸に目眩がして、立っているのもやっとだったのだ。
 それからというもの父が皇宮へ行くと言えば用もないのに付いて行くようになった。
 
 「エクセル!」

 俺が来たと知れば彼女はすぐに飛んで来る。
 そしてもう一人。宰相の息子のゲイルだ。
 俺達は年も近く、クロエ様は皇女という立場なんてこれっぽっちも感じさせない気さくな性格だったから、いつも三人で皇宮を駆け回って遊んだものだ。
 最初は子供がよく抱くような淡い恋心だった。純粋な気持ち。そこには欲の欠片もなく、彼女のそばにいれば幸せな気持ちが生まれた。あの頃はそれだけで充分だった。
 けれどそんな関係も変化の時を迎える。
 ある日の事だ。俺とゲイルが皇宮を訪れても彼女は姿を見せなかった。何かあったのだろうか。妙な胸騒ぎに襲われゲイルが止めるのも聞かず皇女宮へ忍び込んだ。
 宮の周りでは侍女が慌ただしくシーツを抱えて走って行く。
 (何だ?)
 病にでもかかってしまったのだろうか。ちょうど季節は冬から春へと変わる頃。彼女の普段走り回ってる様子を見ると寝相も豪快そうだ。身体を冷やして風邪でも引いたのかもしれない。そして部屋の中を伺おうと身を乗り出した瞬間見てしまったのだ。
 侍女の腕からはみ出たシーツに大量の血が付いているのを。
 (血!?)
 騎士団長を務める父の傍らでたくさんの怪我人を見て来たが、あれだけの出血となると相当深い傷に違いない。嫌な予感がエクセルの背筋に走る。
 一体彼女の身に何があったのだ。居ても立っても居られなくなったエクセルは罰を受ける事を覚悟して乗り込もうと身構えた。
 しかしその時だった。

 「本当におめでとうございますクロエ様!」

 甲高い声で叫ぶ年嵩としかさの侍女の声で飛び出そうとしていた足が止まる。
 (めでたい?何がめでたいんだ!?)
 エクセルは訳がわからなかった。
 そしてさっきシーツを運んで行った侍女と入れ替わるようにやって来たのは湯気の出る飲み物が乗せられたトレーを運ぶ侍女。

 「病気ではございませんからどうぞご安心下さい。クロエ様はお子が産める身体になられたのです。なんて素晴らしい事でしょう!」

 その言葉に俺は頭が真っ白になった。
 彼女は今日“女”になったのだ。
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