侯爵令嬢は前世で冷酷夫だった皇太子に挿入られている最中に思い出す

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第四章

1 苦悩

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 「お綺麗ですわアマリール様!」

 「ありがとう。でもそれはタミヤが支度をしてくれたからよ」

 八年前に皇宮で暮らすようになってから今日まで、彼女はアマリールをいつも驚くほど美しくしてくれる。

 「まあ!そんなことございませんわ。本当に、花が咲くように美しくなられて……殿下がご覧になったらびっくりなさいますわ」

 アマリールの十五歳の誕生日にルーベルから贈られたのはドレスと靴、それにパリュールだった。
 白地に菫色のチュールレースを重ね、花々の刺繍を散らしたドレスは背中が大胆に開いてとても大人っぽい。
 たまたま誕生日が夜会のある日と重なったため、今夜はルーベルの贈り物をすべて身に着けての参加だ。
 
 「最近アルノーたちがよく来ていたのはこのためだったのね」

 「ふふ、殿下は内緒にしておきたかったのでしょう。でもあれだけ頻繁に出入りしては……わたくしたち使用人にはバレてましたわ」

 以前の生でもお世話になった王族御用達の仕立て屋を経営するアルノー。最近よく会うのは王族のどなたかがドレスを仕立てるためだと思っていたのだが、まさか自分だったとは。

 「この宝石も素晴らしいわ……本当にいいのかしら……」

 ルーベルからはこの八年でたくさんのドレスや宝石を贈ってもらったが、今回はこれまでのものとは格が違う。
 例えるなら皇后陛下が、それも要人を招いた大きな式典などで身に着けるような品だ。

 「さあ、お着けしましょうね」

 白い手袋をはめたタミヤが、ビロードの箱の中から目も眩むような光を放つ菫色の大きな石が付いたネックレスを取り出した。
 金具が胸元にあたり、少しひんやりとする。カチッと留め具のはまる音がしてタミヤが離れると、アマリールは大きな姿見の前に立った。
 過去に戻ってきた当時の幼い少女はもうどこにもいない。鏡に映る自分は、少女から大人の女性へと変わろうとする手前の、危ういような美しさを秘めている。
 (でも……どうしてなの……)
 アマリールは少し前からある悩みを抱えていた。
 それは、以前の生ではもうとっくに迎えていたはずの初潮が未だにこないことだ。
 アマリールが女になるまで待つと言ってくれたルーベルは、そのことについてはなにも触れず、約束の通り待ってくれている。
 だが一体誰が口を滑らせたのか、皇宮ではそのことが既に噂になっており、アマリールには皇太子妃としての資格がないのではと囁かれ始めている。
 (……このままじゃ私……)

 「……気に入らなかったのか?」

 深く考え込んでいたせいで、いつの間にかすぐ後ろにルーベルが立っていたことにも気付かなかった。
 ルーベルは不安そうな顔で鏡の中のアマリールを覗き込んでいる。

 「殿下……いいえ、そうではありません。あまりに素晴らしいお品で少し気後れしてしまって……」

 「そうか、ならよかった……よく似合っている」

 「あっ……」

 ルーベルはアマリールの露わになった背中に口付け、腰に手を回した。
 ゆっくりと少しずつ位置をずらし、数度口付けると後ろから華奢な身体を抱き締めた。

 「で、殿下……!」

 「美しいな……」

 ふぅ、と彼が言葉の後に漏らしたため息は、我慢させている証拠だろう。
 申し訳無さに胸が痛む。

 「さあ、そろそろ行こう。皆が待っている」

 「……はい」

 「でもその前に」

 「え?」

 ルーベルは振り返ると外に待機させていた侍従を呼んだ。その手には大きなビロードの箱が。侍従が恭しく箱を開けると、中には先に受け取ったネックレスやイヤリングとお揃いのティアラが収められていた。

 「で、殿下これは……!」

 「お前のために作らせた」

 「でも!」

 ティアラは皇族だけが身に着けることを許される。

 「私はまだ婚約者で……」

 しかも婚約者の資格すらないと思われ始めているのに。
 しかしルーベルはアマリールの様子など気にせずティアラを小さな頭の上に載せた。

 「お前は俺の妃だ。お前だけだ」

 「殿下……」

 「さあ、行くぞ」

 ルーベルはアマリールの手を取り歩き出す。
 その背中は“大丈夫だ”と言っているように見えた。



 

 

 

 

 
 
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