侯爵令嬢は前世で冷酷夫だった皇太子に挿入られている最中に思い出す

クマ三郎@書籍&コミカライズ3作配信中

文字の大きさ
121 / 125
第四章

2 夜会

しおりを挟む






 皇族の入場を告げるラッパの音が鳴り響く。
 会場に足を踏み入れた途端、二人に人々の視線が集中した。そしてアマリールの頭上で煌めくティアラを見た人々は、感嘆とも驚愕ともつかないような声を上げた。
 アマリールは、突き刺さるような視線を受けながらも、努めて平静を装った。
 
 「皆の者、よく集まってくれた。今日は我が愚息ルーベルの婚約者、アマリールが誕生した実にめでたい日でもある。どうか心ゆくまで楽しんでくれ!」

 皇帝アヴァロンの言葉が終わると、会場には夜会の始まりを告げる音楽が流れ始めた。

 「お久し振りでございます。ルーベル皇太子殿下、アマリール妃殿下」

 アマリールを“妃殿下”と呼ぶのは一人しかいない。
 ルーベルとアマリールの元へ真っ先に近寄ってきたのは、昨年公爵位を継いだエクセルと、アドラー公爵夫人となったクロエだった。
 二人はアマリールたちに向かって臣下の礼を取る。

 『ど、どうか顔をお上げくださいクロエ様』

 そう言って慌てて彼女を止めようとしたのはもう何年も前のこと。あの時は逆に、ルーベルからアマリールが止められてしまったが。
 降嫁してからのクロエは、とりわけアマリールに対してはどの貴族にするよりも丁重に接してくれる。そうすることで、ルーベルの妃の座を狙う貴族たちを牽制してくれているのだと教えてくれたのは、やはり姉の性情を誰よりも理解しているルーベルだった。だが、わかっていても未だに恐縮してしまう。なぜなら、かつてクロエはこの皇宮において、皇女殿下として誰よりも気品に満ち溢れ、敬われる存在だったのだから。
 
 「姉上も元気そうで安心した。エリックは元気にしているか?」

 「ええ。エクセルに似て、とってもやんちゃで困ってるわ。あの子ったら昨日も木刀を振り回して、お義母様が大切にしている壺を割ったのよ」

 エリックとは、エクセルとの婚姻前にクロエのお腹にやってきた、あわてんぼうな二人の愛の結晶である。
 本来なら、エクセルの元へ嫁ぐ日を指折り数えながら、ゆっくりと揃えるはずだった花嫁道具。皇女殿下が嫁ぐのだ。並大抵の支度ではもちろん足りない。だが急がないとクロエのお腹はどんどん膨らんでいく。
 困り果てた皇家から依頼を受けたアマリールの父が、その広い伝手を使って猛スピードで目録通りにすべて揃えたことも、当時は大変だったが今ではすっかり笑い話だ。
 アマリールもエリックとは何度も会っているが、日を追うごとにエクセルにそっくりになっていく容姿と、ルーベルの目を盗んではアマリールを口説いて行くあたり、遺伝子の神秘を感じざるを得ない。
 エクセルとクロエが結ばれたことだけでも奇跡のようなことだと思っていたのに、まさか二人の子どもまで目にすることができるなんて、過去に巻き戻った当時は思いもしなかった。

 「殿下も気をつけなければなりませんね」

 「なにをだ」

 「エリックに妃殿下を取られないようにですよ。あれは私に似て、相当なやり手に育つはずですからね。油断していると危ないですよ?いつの間にか妃殿下を掻っ攫われたりして……ね?」

 「ぬかせ。万が一これに触れようものなら例え姉上の子といえど手打ちにしてやる」

 冗談のつもりなのだろうが顔が怖い。見かねたアマリールが口を挟んだ。

 「殿下ったら、エリック様はまだ子供なのですよ?怖いことおっしゃらないでください!」

 「ふん」
 
 相変わらずな二人のやりとりをクロエも呆れ顔で見ていた。けれどエクセルの軽口を許しているのは、やはりルーベルなりの彼への信頼の証なのだろう。なんだかんだ言って二人は仲がいいのだ。
 エクセルとクロエはしばらくの間、皇太子に挨拶をしたくてそばで待ち構えている貴族たちから、ルーベルとアマリールを守ってくれていた。しかし残念ながらそれも長くはもたなかった。いつの間にか痺れを切らした貴族たちが、ルーベルたちを取り囲むようにして輪を作っている。

 「……さすがにもう限界かな。名残惜しいが行こうかクロエ」

 とんでもなく悪くなってきた周りの空気を察し、エクセルが苦笑する。

 「そうね。アマリールちゃん、頑張ってね!」

 そう言い残し、エクセルとクロエはアマリールたちから離れていった。
 そこからはもう、いつものことではあるのだが、各家門による娘の売り込み合戦だ。アマリールが横にいようがお構いなし。もはや恒例行事となっているそれ自体はアマリールもすっかり慣れたのだが、今回はいつもと少し様子が違う。皆笑ってはいるが、妙に刺々しい雰囲気。だが目線を見ればわかる。これもおそらくルーベルが贈ってくれたティアラが原因だろう。
 もちろんエレンディールに名を連ねる貴族であれば、ルーベルのアマリールへの寵愛を知らぬ者はいない。この八年の月日を経て、さすがに直接アマリールに向かってなにか言う者はいなくなったが、それと比例するように悪意ある陰口や噂を流すものが増えた。それはまるで遅延性の毒のように、周囲をじわじわと囲い込むようにして迫ってくる。今のアマリールは、本人も気づかぬうちにその毒に少しずつ蝕まれている状態だった。

 「子を産めない女が婚約者なんてね」

 ルーベルから一歩下がったところで話しを聞いていたアマリールの背後から、はっきりとそう聞こえた。そして嘲笑めいた複数の笑い声も。
 くだらないと一笑し、睨みつけてやればいいだけの話しなのに、振り向くことができなかった。本当のことだからだ。
 
 「まあ皆さん、ごきげんよう。どうかわたくしもお話しに混ぜてくださらないかしら?」

 突如聞こえてきたのは、まるで陰口を吹き飛ばすような朗らかな声。それはアマリールもよく知る人物のものだった。
 
 「まあ、ローザ殿下!」

 

 

 
 









 
 
 


しおりを挟む
感想 73

あなたにおすすめの小説

結婚式に結婚相手の不貞が発覚した花嫁は、義父になるはずだった公爵当主と結ばれる

狭山雪菜
恋愛
アリス・マーフィーは、社交界デビューの時にベネット公爵家から結婚の打診を受けた。 しかし、結婚相手は女にだらしないと有名な次期当主で……… こちらの作品は、「小説家になろう」にも掲載してます。

愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました

蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。 そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。 どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。 離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない! 夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー ※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。 ※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。 そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。 相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。 トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。 あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。 ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。 そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが… 追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。 今更ですが、閲覧の際はご注意ください。

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

処理中です...