侯爵令嬢は前世で冷酷夫だった皇太子に挿入られている最中に思い出す

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第四章

3 ローザ

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 その声色から察するに、さっきまで陰口を叩いていたと思われる令嬢たちが、皇族に声を掛けられた嬉しさで舞い上がっているのがよくわかる。
 
 「こんなところにかたまって、一体どうされたの?わたくし、皆さんの姿が見えなくてとても淋しい思いをしましたわ」

 「まあ!ローザ殿下からそのようなお言葉をかけていただけるなんて光栄です!」

 クロエが降嫁した少し後、まるで入れ替わるようにしてローザが皇籍に入った。
 ローザの母である第三皇妃シェリダンのかねてよりの願いを皇帝アヴァロンが聞き入れたのだ。
 その際、難色を示した者は多かった。皇后に第二皇妃、そしてルーベルもいい顔はしなかった。だがシェリダンの思惑とは別にアヴァロンにはある考えがあった。皇女という身分を与え、いずれ政治の駒として使うというその考え自体は、ルーベルですら完全に否定することはできなかったようだ。
 そしてローザはというと、皇女と認められたあとも礼儀作法と座学を必死に学び、今ではその名に恥じぬ立派な淑女に成長していた。
 
 「ローザ様、今夜のお召し物もとっても素敵ですわ!」
 「本当に!差し支えなければどちらのデザインかお聞きしても?」

 さっきまでアマリールへの悪口に興じていた令嬢たちは、口々にローザを褒め称え始めた。

 「ありがとう皆さん。とっても嬉しいわ。でもね、今日はわたくしなんかよりもずっと素敵な方がいらっしゃるわ……アマリールおねえさま!」

 ローザは令嬢たちを置いて、小走りでアマリールのそばへと寄った。

 「皇女殿下……」

 「嫌だわおねえさま!いつものように名前で呼んでくださいませ」

 アマリールの前でだけ見せる、屈託のない笑顔は昔から変わらない。ローザは今でもアマリールのことを“おねえさま”と呼んで慕ってくれている。
 
 「ですが、公の場ですから……」

 庭園で、ふたりきりでお喋りをするのとは訳が違う。

 「でも、おねえさまはおねえさまですわ。ね、おにいさま?」

 いつの間にか振り向いて、二人のやり取りを見ていたルーベルは、ローザの問いかけに僅かに微笑んで見せた。

 「そうだな」

 「ふふ、ほら!」

 その様子を見ていた令嬢たちは、バツの悪そうな顔をして一人、また一人と静かに散っていった。
 シェリダン皇妃が入宮してからしばらくは、ルーベルも皇后マデリーンも、ローザがアマリールに近づくことをよしとしなかった。
 今でもシェリダン皇妃に対する二人の気持ちは変わらなかったが、ローザのことに限って言えば、少しだけ心境の変化があったようだった。
 ローザは心からアマリールを慕い、そばにいるために努力を怠らなかった。なぜならアマリールの評判を自分のせいで下げてしまわないためにだ。それにいい成績さえ収めていれば、周りも普段の彼女の行動にまでは文句を言わなかった。
 そして皇女となってからは常に公の場でアマリールを声高に“おねえさま”と呼び、アマリールに難癖をつける貴族たちを黙らせた。
 このことに誰よりも驚いたのはルーベルだった。クロエが皇宮を去った今、アマリールには心強い味方がいない。それを新たに皇女として認められたローザが、皇宮に残る第二皇妃の二人の皇女ではなく、アマリールだけを“姉”と呼び、皇太子妃の資質について騒ぐ周りを牽制し出したからだ。
 最初こそ、ローザの後ろにいる者たちの思惑が絡んでいるのではないかと疑い、警戒していたルーベル。だが、ローザの母シェリダンと、その周りの顔が引きつっているあたり、下心があっての行動とはとても思えなかった。
 今では皇后マデリーンも、親と子は別の生き物であると態度を軟化させるまでになった。

 「おにいさま、おねえさまとは踊られないのですか?ローザはおねえさまの踊る姿が早く見たいですわ。だって、踊るおねえさまは誰よりも綺麗なんですもの!」

 「まったく、お前には負けるよ」 

 皇太子に取り入ろうと周りを陣取る腹黒爺。それをも追い払おうとするローザには、ルーベルも苦笑するしかない。

 「ローザ様、いつもありがとうございます」

 名前を呼ばれた途端、ローザの笑顔が輝く。

 「行くか」

 「はい、殿下」

 アマリールは、差し出された手にそっと自身のそれをのせた。


 
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