123 / 125
第四章
4 お誘い
しおりを挟むルーベルとアマリールがホールの中央へ向かうと、踊っていた人々は端によけた。
「緊張しているか?」
「……少し」
会場中の視線が注がれている。この八年、ルーベルの婚約者としてありとあらゆる場に出席してきたが、場慣れはできてもダンスだけは緊張してしまう。それは相手がルーベルだからだ。
二十歳を迎えたルーベルの身体はすっかり大人の男性のそれであり、密着するたびに胸板のたくましさや、支えてくれる腕の力強さを感じてどうしようもなく胸が高鳴る。
それに、いつからかルーベルの美しい金の瞳に宿るようになった熱。
それは人生が巻き戻る前、もう一人の彼から何度も向けられた熱と同じだ。
彼は私を欲している。
そう思うとどうにも気持ちが落ち着かなくなってしまう。
「俺だけ見ていろ」
だから、あなたを見ると緊張してしまうの。
そう言えたらどんなにいいか。けれど、口にすれば彼はきっと喜んで、アマリールに可愛い意地悪を仕掛けてくるから今は言えない。
ルーベルがステップを踏み出すと、人々は動きを止めて見入った。
毎日息つく暇もないほど忙しい人なのに、こんなに優雅なステップが踏めるなんて。一体いつ、どこで練習しているのだろう。
「なにを考えてる?」
「殿下のことを」
素直に答えたのが意外だったのか、ルーベルは微笑みながらぐっとアマリールの腰を引き寄せた。二人を見ている令嬢たちから黄色い声が上がる。
「今夜は寝所に誘ってくれないのか?」
耳元で囁かれ、腰から下に痺れるような甘い疼きが広がっていく。
そういえば、最後に二人で眠ったのは去年の誕生日だった。
幼い頃は『一緒に眠りませんか?』と気軽に誘えた。本当にただ隣り合って眠るだけだったから。
けれどこの頃は……ルーベルの求めているものがわかるようになってからは、今までのように彼を寝所には誘えなくなっていた。
だがルーベルはアマリールの考えなどお見通しだ。
「……嫌ならなにもしない。それでも駄目なのか?」
「今夜は遅くまで皆様と飲まれるのでは?」
「お前の方が優先だ。今日はお前の誕生日だしな」
朝まで一緒にいてくれるつもりなのだろうか。“嫌ならなにもしない”ということは、嫌でなければどうするつもりなのだろう。
踊りながら悩めるほどアマリールは器用ではない。思わずルーベルの足を豪快に踏みつけてしまった。
「も、申し訳ありません殿下!」
「……そんなに身構えるな。大丈夫だ、なにもしないから。以前のように話しをして寝るだけだ」
ああ、またこんな顔をさせてしまった。
悪いのは殿下じゃなく、身体のことがあって踏み切れないアマリールの方なのに。
「部屋に戻ったらタミヤに殿下の分の毛布を用意して貰いますね」
「アマリール……ああ、そうだな。お前は寝相が悪いから、五枚くらい用意しておいた方がいい」
「殿下ったらもう!」
白い歯を見せて笑うルーベルの顔が、アマリールにはとても眩しかった。
39
あなたにおすすめの小説
結婚式に結婚相手の不貞が発覚した花嫁は、義父になるはずだった公爵当主と結ばれる
狭山雪菜
恋愛
アリス・マーフィーは、社交界デビューの時にベネット公爵家から結婚の打診を受けた。
しかし、結婚相手は女にだらしないと有名な次期当主で………
こちらの作品は、「小説家になろう」にも掲載してます。
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
「妹の方が可愛い」と不倫夫に捨てられた私。どうぞ借金まみれの実家ごと引き取って。私が肩代わりしていた負債、すべてお二人に引き継いでおきました
唯崎りいち
恋愛
「お前より妹の方が可愛い」
不倫した夫は私を追い出し、略奪した妹と笑った。
どうぞ、その「可愛い妹」と地獄までお幸せに。
私が肩代わりしていた実家と店の多額の借金、すべてお二人に引き継いでおきましたから。
「財布」を失った元夫と、逃げ場を失った妹。
身の丈に合わない贅沢を望んだ寄生虫たちの、惨めな末路を特等席で眺めさせていただきます。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
【完結】好きでもない私とは婚約解消してください
里音
恋愛
騎士団にいる彼はとても一途で誠実な人物だ。初恋で恋人だった幼なじみが家のために他家へ嫁いで行ってもまだ彼女を思い新たな恋人を作ることをしないと有名だ。私も憧れていた1人だった。
そんな彼との婚約が成立した。それは彼の行動で私が傷を負ったからだ。傷は残らないのに責任感からの婚約ではあるが、彼はプロポーズをしてくれた。その瞬間憧れが好きになっていた。
婚約して6ヶ月、接点のほとんどない2人だが少しずつ距離も縮まり幸せな日々を送っていた。と思っていたのに、彼の元恋人が離婚をして帰ってくる話を聞いて彼が私との婚約を「最悪だ」と後悔しているのを聞いてしまった。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる