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第四章
5 警戒しろ
しおりを挟む曲が終わり、手が離れる。
一歩後ろに下がって向かい合い、アマリールは礼をした。
「殿下、ご一緒できて光栄でした」
「俺もだ。足は痛いがな」
いたずらっぽく笑うとルーベルは再びアマリールに向かって手を差し出した。
「喉が乾かないか?」
「緊張でカラカラです」
「だろうな。なにか飲もう」
ルーベルはアマリールの手を引いて、会場の奥に設けられた皇族の休憩席へと向かう。
「ルーベル!」
途中、少しだけ幼さの残る声で呼び止められた。声のした方へ振り向くと、そこにはふわふわの金の髪と湖面のようなエメラルドグリーンの瞳。まるで壁画に描かれる天使のような美少年がいた。
「ハニエル。来てたのか」
「やだなぁ、ルーベルの大事な人のお誕生日だよ?来るに決まってるじゃない。ね、アマリール!」
にっこりと笑うその笑顔は、本当に天使かと見紛うほどだ。
ハニエルはルーベルのことを心から慕っていて、だから必然とその婚約者であるアマリールのことも大切に扱ってくれていた。
「ありがとうございますハニエル様。それにしてもとっても背が伸びられて……」
「うん。最近急に伸びだしたんだよ。このままいけばルーベルを超しちゃう日もすぐだね」
ハニエルはえっへん、とおどけて見せるがルーベルはそれを見て意地悪そうに微笑んだ。
「そうだな。お前は頭が足りない分、背ぐらい伸びないと格好がつかないな」
「ちょっとルーベル!?もう、そんなこと言うならアマリールを借りて行っちゃうからね!」
ハニエルはアマリールの手を取って、さっきまで踊っていた中央へと歩いて行く。
「えっ?ハニエル様?えっ?」
アマリールはルーベルとハニエルを交互に見る。ルーベルはやれやれといった表情で見ているだけだし、ずんずんと勢いよく進むハニエルに至っては後頭部しか見えない。
(の、喉乾いてるのに……)
ホールの中央まで来るとハニエルはアマリールに向き直った。そして両足を揃えてお辞儀をし、再び手を差し出した。
「アマリール、僕と踊っていただけますか」
再び降臨した天使の笑顔にアマリールも苦笑するしかない。可愛いけれど、ずいぶん強引な天使だ。思わずアマリールも笑みがこぼれた。
「ええ、よろこんで」
まさか彼とルーベルの目の前で踊る日が来るなんて。けれど今の自分にはうしろめたさなど微塵もない。
ちらりとルーベルの方を見れば、彼はローザと話しをしていた。きっとさっきのように、ローザがルーベルの周りに群がる令嬢を追い払ってくれているのだろう。
そしてアマリールはハニエルの手を取り、曲にのってステップを踏んだ。
「ごめんね。ルーベルへの嫌がらせにアマリールを使っちゃって」
「いいえ。仲の良い従兄弟同士であられるお二人の、意思疎通のために使われるなんて光栄なことです」
「ふふ。さすがアマリールだ。ルーベルとも仲良くやってるみたいでなによりだよ」
ハニエルの笑顔には嘘も憂いもない。
これまでアマリールは、巻き戻る前の人生で彼にしてしまったことと、それによる後悔を決して忘れたことはない。
この世で再会してから彼とは常に適切な距離を保ち、必ずルーベルを間に挟むようにして接してきた。
そもそもハニエルがルーベルを慕っていたということもあり、今ではこんな風に二人で踊っていても、ルーベルは呆れ顔で見ているだけで特になにも言わない。とてもいい関係が築けたと思っている。
「……ねえアマリール。あの子、気を付けた方がいいかもしれないよ」
「あの子?」
唐突になにを言うのだろう。アマリールはハニエルの視線の先を探す。そこにいたのは……
(ローザ様……)
「ハニエル様、まさか今のはローザ様のことを警戒しろとおっしゃっているのですか?」
ハニエルの顔からは微笑みが消えている。ならば本気で言っているということか。
(まさか、私をダンスに誘ったのもそれを伝えたかったから?)
「ですが、ローザ様は殿下を本当の兄のように思っておられます。それに殿下の婚約者である私にも、とてもよくしてくださっていますし……」
「そう、君だよ」
「え?」
「ルーベルに対してじゃない。君に対して警戒しろと言ってるんだアマリール。あの子の君を見る目つきは普通じゃない。だから気をつけて」
言い終えたハニエルの顔には、再び天使のような微笑みが浮かんでいた。
アマリールはハニエルの言わんとすることがわからず困惑していた。しかしハニエルの笑みは、まるで“答えは自分で探せ”と言っているようで、それ以上なにも聞くことができなかったのだ。
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