盲目公爵の過保護な溺愛

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 大広間につくと、招待客でひしめき合っているはずの場内は静まり返っていた。

 「本日は愛娘エミリアの十六歳の誕生日パーティーにお集まりいただき、誠にありがとうございます」

 廊下に響いてきたのは上機嫌な父の声だった。
 中の様子を確認しようと、両開きの大きな扉に手をかけてそっと開く。
 僅かな隙間から中を覗き見ると、そこには父母とエミリアを中心に、大勢の招待客が輪を作っていた。

 「おかげさまでエミリアは美しく賢く、そして健やかに成長いたしました。まだ子どもだと思っていたのに、もう結婚が許される年齢になったとは……いやあ、わたしたちも年をとるはずですな」

 招待客から笑いが漏れる。
 輪の中心で微笑むエミリアは、姉のわたしから見ても美しく、招待客の視線──特に男性陣からの視線を一身に集めていた。

 「ささやかではございますが、心ばかりのおもてなしを用意させていただきました。今宵はどうぞゆっくりとお楽しみください」

 父の挨拶が終わるや否や、会場を盛大な拍手が包んだ。
 ここにいる人たちは皆、アシュトン伯爵家が四人家族だということを知らないのだろうか。
 それとも知っていてあえて誰も口にしないのか。

 ──惨めだわ

 いてもいなくてもいい存在。
 それがわたしなのだ。
 
 今さらどんな顔をして会場に入ったらいいのかわからず、わたしはその場から逃げるように走り去った。


 *


 パーティーに参加しなかったことがバレたら叱られるだろうか。
 不安な気持ちで廊下を走るわたしは周りが見えておらず、つきあたりを曲がった所で反対側からやってきた誰かと思いっきりぶつかってしまった。

 「っ……!」

 聞こえたのは男性のうめき声と、ゴトンとなにかが床に落ちる音。

 「すっ、すみません!!」

 慌てるわたしの目に映ったのは、床の上で尻もちをつく男性と、少し先に転がる杖。
 足が悪い人なのかと思ったが違う。
 男性は視線を宙にさまよわせながら両手を床に這わせ、落とした杖を探している。

 「あ、あの、杖はこちらです」

 床をさする手を取って、拾い上げた杖を握らせると、男性はほっとしたような表情を見せた。

 「……すまない」

 男性は手のひらを床に押しつけて身体を支えながら、ゆっくりと立ち上がった。
 そして大きな手でパンパンと衣服についた誇りを払う。

 「あ、あの……わたし、よく前を見ていなくて……すみませんでした」

 「謝らなくていい。この通り目が悪いのでな。こういうことは日常茶飯事だ」

 視線は合わないが、目の前に立つわたしの輪郭はなんとなくわかるようだ。





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