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「エラルド様、随分顔色が悪いですが」
「当たり前だろうが。なんだあの姦しい女は」
客人が帰ったあと、得も言われぬ疲労感に見舞われたエラルドは、自室に戻る気力もなく再び応接室に戻って来た。
「それにしても凄かったですねえ……まあ、呼ばれてもいないのに来ている時点でおかしいのはわかっておりましたが」
これまで公爵位とその容貌のせいで数多の女性に言い寄られてきたエラルドだったが、その中でもエミリアはだいぶ強烈なグループに分類される。
「招待した姉は、ほとんど喋らなかったではないか。……やはり迷惑だったか」
「いえ、そういう風には見受けられませんでした。ですが……姉妹の関係については気になります」
「例えば?」
「姉のミレーヌ様は、妹のエミリア様に怯えているようでした。茶葉の話の時も、エミリア様はミレーヌ様が好まないのだとおっしゃっておられましたが、ミレーヌ様はアラベルを飲むのが……いえ、名前を聞くのも初めてのように見受けられました」
確かにあの時妹のほうは、『両親が私のためにと毎年たくさん購入してくれるのです』と言っていた。
妹は高級な茶葉を愛飲しているというのに、その姉は飲んだことはおろか、茶葉の名前すら知らないと?
それに加え、妹に怯えていたとはいったい──
「まさか、姉は生家で虐げられているとでも……?」
だが、決してあり得ない話ではない。
特に娘の結婚を商売のように考えている貴族の間では、姉妹間格差は当然のように存在すると聞く。
「エミリア様はとても華やかな容姿をしておられました。身に着けておられるのも上等なお品で……一方のミレーヌ様は華やかとは言いがたい容姿ではありますが、気遣いや所作の美しさがとても印象的でした。ですが……」
「なんだ?」
「お召し物はお世辞にも質がいいとはいえず、サイズも合っていないようでした。加えて年季も入っているようで……」
それ以上言及するのが憚られたのか、執事は口を噤んだ。
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『それならいい場所があります。よろしければご案内しましょうか?』
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