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数日後、ロセリーニ公爵家の家紋が刻まれた馬車がアシュトン伯爵家の門をくぐった。
「ロセリーニ公爵からお姉さまに交際の申し込みって、いったいどういうことよ!?」
昼下がりの邸内に、エミリアの甲高い声が響き渡る。
「何かの間違いよ!ロセリーニ公爵ったら、わたしとお姉さまの名前を間違えたに違いないわ」
「いや……手紙には『アシュトン伯爵家の長女ミレーヌ嬢』と書かれている。これは間違いなくミレーヌへ宛てた内容だ」
手紙を握り締める父は、青ざめた顔でエミリアに告げた。
「ミレーヌ!これはいったいどういうことなの」
父と同じ──いや、それ以上に真っ青な顔色の母が叫ぶ。
「わ、わたしにもなにがなんだか」
「嘘よ!お姉さまが何かずるい手を使ったに違いないわ」
「わたしはなにもしてないわ!」
「それならどうしてお姉さまがロセリーニ公爵に選ばれるのよ!?何の取り柄もないお姉さまが!」
理由なら私が教えて欲しいくらいだ。
ロセリーニ公爵からの手紙には、父と母に直接交際の許しを得たいので、三日後に我が家を訪れると記されていた。
やり場のない怒りを爆発させるエミリアの横で、妹が選ばれると信じて疑わなかった両親は項垂れている。
「とにかく三日後は粗相のないようにしなければ……」
それっきり、父も母も黙り込んでしまった。
*
三日後、ロセリーニ公爵は約束の時間ちょうどにアシュトン伯爵邸に到着した。
使用人から到着の報せを受けたわたしたちは、家族揃って玄関ホールで彼を出迎えた。
「ようこそおいでくださいました」
緊張からか、父の声は上擦っていた。
濃紺の上下に身を包んだロセリーニ公爵は、一見地味な装いに見えるが、上質な生地は隠しきれない高級感を醸し出ている。
「アシュトン伯爵、そして夫人も、この度は急なことで申し訳なかった」
「滅相もない!ロセリーニ公爵にお越しいただけるなんて、この上ない喜びです」
三日前はあれほど憔悴していたのに、ロセリーニ公爵に名前を呼ばれた父の顔は、興奮からかほんのり紅潮していた。
「ようこそお越しくださいました。エミリアも、ロセリーニ公爵の到着を今か今かと待ちわびておりました」
母とエミリアは、真新しいドレスと宝石で着飾っていた。
そして視力が悪い彼の気を少しでも引くためだろうか、いつもよりきつい香水の匂いが辺りに漂っている。
「ロセリーニ公爵様……お会いしたかったです」
エミリアはロセリーニ公爵に近寄ると、含みのある上目遣いで彼を見つめた。
「……すまないが、離れてくれないか。強い香りは苦手なんだ」
「まあ、これは王室お抱えの調香師が発表したばかりのものなのです。王室の方々の好みを知り尽くした者が作った品なら、きっとロセリーニ公爵様もお気に召すだろうと……!」
いい香りでしょうと言わんばかりにエミリアが身を乗り出すと、ロセリーニ公爵は眉間に深い皺を寄せた。
「ミレーヌ嬢はどこだ」
「は、はい。ここです」
声の聞こえ方からだいたいの位置を把握したのか、彼は少し後方に立っていたわたしの元へ、杖を頼りにやってきた。
「ようこそお越しくださいました」
丁重に礼を取ったあと顔を上げると、彼はほんの少しだけ意地悪そうに口の端を上げていた。
「伯爵宛の手紙は君も読んだか?」
「はい。ですがその……交際の申し込みなんて、相手をお間違えではありませんか……?」
「君以外に誰がいると言うんだ」
「それは──」
エミリアの名前を出そうとした瞬間、鬼の形相でこちらを睨む本人と目が合った。
妹の隣に立つ母も同様に、威圧するような目をわたしに向けている。
ロセリーニ公爵は、突然わたしが口ごもった事で何かを察したようだった。
「……とにかく、詳しいことは中で話そう。アシュトン伯爵、案内してもらえるかな?」
「もちろんでございます。さあどうぞ、こちらです」
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