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愛の営みを交わしたあとの雰囲気というものは、どうやっても隠しきれないものである。
距離感がまるで違うのだ。それは、物理的にも、心理的にも。
アーヴィングとアナスタシアの間には、ほんの少し過度な唇の触れ合い以外は正真正銘なにもなかったが、やはり同じベッドで一夜を過ごすと色々漂っちゃうのである。
「……どう?アーヴィング」
「シアは美しいからなにを着ても似合います。でも……今朝の深紫のドレスは、シアの凛とした雰囲気の中にある可憐さを引き立たせて……本当に美しいです」
「濃い紫だから、きつく見えないかしら?」
「気品ある深紫にシアの黄金の髪が映えて、目がくらむほど眩しいです。まるで女神のようです」
「……んもぅ……褒めすぎよアーヴィング……恥ずかしいわ」
ほんのりと頬を赤く染め、アナスタシアは長椅子に座るアーヴィングの隣に腰掛けた。
これまでとは明らかに違う、膝と膝が触れ合うよりもっと近い距離。
恥ずかしいような、拗ねたような表情でアーヴィングを見上げるアナスタシア。その手はそっとアーヴィングの太腿の上に置かれた。
そんなアナスタシアを心底愛おしそうに微笑んで見つめ、半分だけ下ろされた黄金の髪を指で優しく梳くアーヴィング。
これは朝の支度の一幕であるが、侍女たちはこの甘々な雰囲気の二人にあてられて、皆一様に赤面し、そわそわむずむずとしていた。
その中にはアナスタシア専属侍女となって長いドナの姿も。
ドナは、初めて見る主の姿に驚きを隠せなかった。
「今日の髪型も素敵です。」
「髪を結わせたらドナの右に出る人はいないのよ?いつもありがとう、ドナ」
髪型を褒められて一層頬を赤くしたアナスタシアが、控えていたドナに声をかけた。
「あ、い、いえ、恐縮です」
マルデラへも同行したドナは、アナスタシアがアーヴィングを本気で夫に迎えるつもりであることは理解していた。
だがそこに情はあれども、愛や恋などという甘いものは一切含まれていないと思っていたのだ。
アナスタシアはいつも先を見据え、自身の運命を左右する一大事にも冷静に行動できる人だ。アーヴィングのことも、おそらく自身の将来を見据えた上で、役に立つ存在だから拾い上げたのだろうと。そう思って疑わなかった。
だってアーヴィングのような男はアナスタシアには釣り合わない。生まれも、育ちも、何もかもが。
けれど違う。
アナスタシアは、恋をしている。
目の前のアナスタシアは、生まれて初めての恋に夢中になる少女のよう。
そしてアーヴィングも同じ……いや、その仕草や表情からは、それ以上にアナスタシアを愛しているのが窺い知れる。
二人は真に愛し合って結ばれようとしている。
──とんでもないことをしてしまった
ドナは入口付近に立つ護衛のコリンを見た。
すると彼もまた、同じような目線を自分に向けていた。
愛し合う二人を皆が微笑ましく見守るこの空間で、青ざめるドナとコリンに気づくものは誰もいない。
いつもなら周囲の人間の機微に真っ先に気づくアナスタシアでさえ、今はアーヴィングのことしか見えていなかった。
「みゃう!」
「わっふ!」
「あらまあ、ふたりとも、どこに行ってたの?」
イアンに抱えられて入室してきたのはイヴとハリー。ふたりはアナスタシアとアーヴィングを見るなりイアンの腕から飛び降りた。
「うふふっハリーったら、くすぐったいわ」
「イヴ、どこに行ってたの?姿が見えないから心配したよ」
ハリーはアナスタシア、イヴはアーヴィングの膝に飛び乗り甘えだした。
「殿下、アーヴィング殿。起きて早々申し訳ないのですが、少しだけお付き合い願えますでしょうか」
「どうしたの、イアン。なにか急用かしら?」
アナスタシアは首を傾げる。
「ローレンスとルシアンが、それぞれの冒した愚行を詫びるために、二人に捧げたいものがあるそうです」
「捧げたいもの?」
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