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「え……?」
「どうしたのキャロル?さあ、入って」
ルシアンは笑顔で促すが、開いた扉の先にいた人物に、キャロルは戸惑いを隠せなかった。
「ル、ルシアン様。これはどういうことでございますか?」
部屋の中には王太子ローレンスと、これから自分との関係性について釈明をしようと思っていた相手・ヴィンセントの姿が。
予想もしなかった展開にキャロルは狼狽えた。
しかし、ルシアンを敬称なしで呼ぶキャロルに、ヴィンセントもまた慌てていた。
「おい、キャロル!ルシアン殿下をそのように呼ぶなんて不敬だぞ!」
ヴィンセントの言葉に、いち早くルシアンが反応する。
「呼び捨てだなんて……二人は随分親しい間柄なんだね……」
憂いを帯びた表情で、チラチラと二人の顔を見比べるルシアン。キャロルはすぐさま口を開いた。
「ち、違いますわ!!どうか誤解なさらないでルシアン様!!」
そのやり取りを見ていたローレンスは、口許に作り物のような笑みを刷く。
「まあまあ。よく来てくれたねアドラム嬢。まずは座ってくれるかな?」
ローレンスは、自身とヴィンセントが並んで座る向かい側の席に着席するよう促した。
するとキャロルは、ルシアンによく似た、けれど比べ物にならないほど大人の色香を纏うローレンスの顔に、しばし見惚れていた。
「ん゛っんん!キャロル、座ろうか?」
「はっ、はい、ルシアン様」
若干面白くなさそうなルシアンに再度促され、キャロルは席についた。
「突然すまなかったね、アドラム嬢。実はこのヴィンセントから興味深い話を聞いてね。事の真偽を確認するために君に来てもらったんだよ」
「興味深い話……と申しますと?」
「ああ。君がアーヴィングとアナスタシアの仲を引き裂こうと画策した件についてだ」
「は!?」
「その顔……私の発言はなにか間違っていたかい?だが、ヴィンセントからは確かにそう聞いているよ。君はアーヴィングに横恋慕して、アナスタシアから彼を奪うため、王族の身辺を探ったと」
「そ、そんなことしていません!!ヴィンセント様!なぜそんな嘘を申されたのです!?アナスタシア殿下のことについては、アーヴィング殿に当主の座を奪われるかもしれないと危惧したあなたが、血眼になって情報を集めたのではありませんか!」
「……ヴィンセント、アドラム嬢はこう言っているが、どうなんだ?」
ヴィンセントは僅かに口の端をつり上げた。
「往生際が悪いぞキャロル!お前の浅ましい考えが見抜けないような殿下方ではない!アーヴィングへの横恋慕の末、アナスタシア殿下を貶めるように画策するとは重罪も覚悟するんだな!」
「なっ!?なにをおっしゃるの!ルシアン様!私はこの方に利用されたのですわ!」
「利用?」
「ええ!ヴィンセント様はアーヴィング様とアナスタシア殿下の仲を引き裂こうと画策していました!理由はアナスタシア殿下が降嫁されることで、アーヴィング様がラザフォード侯爵家を継がれるのではないかと恐れたからです!」
「へえ……それで?」
「アナスタシア殿下のお身体についての情報を集めたのはヴィンセント様ですわ!証人もおります!」
“証人”
この言葉にローレンスとルシアンそれぞれが反応した。キャロルは自分に分があると踏んだのか、表情に少し余裕が出てきた。
そして、ヴィンセントに向かってその証拠に関する言葉を叩きつけるように叫んだ。
「証人というよりは共犯者と言った方が正しいですわね。アナスタシア殿下の身体についてヴィンセント様に情報を漏らしたのは、他でもないアナスタシア殿下の侍女と護衛ですわ!」
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