先見姫の受難 〜王女は救国の騎士から逃げ切りたい〜

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 可愛らしい小鳥の鳴き声。
 ふわふわとした真っ白な天蓋を這わせた雲のような天井は、一番のお気にいりです。
 穏やかな時間が流れるこの部屋は、私が長年暮らす宮の寝室。

 ──あれ……私……?

 目が覚めたばかりのぼんやりとする頭で、何故自分がここにいるのか考えを巡らせようとした瞬間でした。

 「ア、アンネリーエ様!!」

 寝台の直ぐ側で声がしたと思ったら、長年勤めてくれているばあやが、目を開けた私を見るなり駆け寄ってきました。

 「ばあや、おはよう」

 「おはようじゃありませんよ!お加減は?どこか痛いところはありませんか?」

 ばあやは皺の目立つ手で、心配そうに私の頬や身体を擦ってくれます。

 「うふふ、くすぐったいわ。どうしたのばあやったら」

 「どうしたのって……まさか、覚えてらっしやらないのですか!?」

 「え?」

 「会議場で白目を剝いて倒れられて……ここまでクリューガー卿が抱いて連れて来られたんです!もう、ばあやは心配で心配で……!!」

 よよよ、と泣き崩れるばあやには悪いのですが、“クリューガー卿”のひと言ですべてを思い出した私は、ピシャーンと身体に雷が落ちたような衝撃が走りました。
 そしてまるで走馬灯のように、先見の力が見せた未来が脳内をぐるぐると回り、全身に怖気おぞけが。

 「ばあや、私はどれくらいの間眠っていたの?」

 「丸一日です。全然目を覚まされないので、ばあやはもう気が気でなくて……!!」

 まさか丸一日も目を覚まさなかったなんて。
 しかしあれほど衝撃的な未来を見せられてはそれも致し方ありません。
 それよりも私が倒れた後、会議場はどうなったのでしょう。
 まさか、私が先見の内容を伝えずに倒れてしまった事で、リヴェニア侵攻を強行的に決めたりはしていないでしょうか。
 私は居ても立っても居られず、寝台から降りました。

 「アンネリーエ様!?まだ起き上がってはいけません!」

 「ばあや、今は国を揺るがす一大事なの。こんなところで寝ているわけにはいかないわ。今すぐ、状況を把握しないと……」

 父の所に行く支度をお願いしようとしたら、急いだ様子の侍女が走って来ました。
 ですが、何だか様子がおかしいです。
 何か急な知らせがあるからやってきたのでしょうが、頬が紅潮し、緊張した面持ちをしています。
 いったい何があったのかと心配になりましたが、この侍女が持ってきた知らせに私は驚愕する事になるのです。
 
 「姫様!ク、クリューガー卿がお見舞いにいらしております!」

 ──何ですって!?

 思わず心の中で絶叫してしまいました。
 お見舞いって、そもそも私が倒れたのはあなたのせいなのですよ。
 文句のひとつも言って差し上げたいところですが、今は彼と面と向き合って話す心の準備ができていません。
 戸惑う私にばあやが口を開きます。

 「クリューガー卿はアンネリーエ様の事をとても心配なさって、何度もお見えになられたんです」

 「そ、そうなの」

 「噂には聞いておりましたが、近くで見るとそれは素晴らしい美丈夫でいらっしゃって……ばあやは年甲斐もなくドキドキしてしまいました」

 彼とのやり取りを思い出したのか、ばあやも侍女も、嬉し恥ずかしな表情でうっとりしています。
 ばあや、騙されてはなりません。
 あの人は私を辱めて喜ぶ悪魔なのです。
 しかし悪魔はすっかり私の大切な人たちを懐柔してしまった模様。

 「あの、姫様?クリューガー卿をお招きしますか?」

 「招く!?」

 招く、とは彼をここに招き入れるという事ですか?
 侍女はもじもじしています。
 しかしそのもじもじの理由が、悪魔への恐怖に慄く私にはこれっぽっちもわかりません。

 「いけません!」

 つい上げてしまった大声に、ばあやも侍女も目を丸くしました。
 ですが、それも仕方ありません。
 だってここには寝台があるのですよ!?
 寝台+悪魔ときたら、答えは決まってます。
 いえ、寝台があろうとなかろうと、とにかく彼と接触するのは危険すぎます。

 「申し訳ないけれど、クリューガー卿にはご遠慮してもらって。お気持ちだけいただきますと。それとばあや、父上の所に行きます。支度を手伝って」

 私の言葉に侍女はあからさまに残念そうな顔をしました。
 ごめんなさいね。でも我慢してちょうだい。
 本当はお気持ちもいただきたくないくらい恐ろしいのよ。
 既に私の私的空間にまで存在を刻みつけているなんて、クリューガー卿は恐ろしい人です。 

 これは、何としてでも第一騎士団の力を借りずにリヴェニアを退けねばなりません。
 私は強く拳を握り締め、決意したのです。







 
 
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