93 / 331
3章
22
しおりを挟む成り行きでご一緒する事になってしまったけれど………どんなお話をすれば良いのかしら。
フランシス様は満天の星空を柔らかい表情でご覧になっている。
中性的で、とても美しい方。
王妃様と愛し合っていらした方なのよね………。
ダメだ。王妃様が赤裸々に語って下さったせいか、お話を思い出すと何とも言えない妙な表情になってしまう。
「ユリシスとはどう?仲良くやっているの?」
仲良く……やっている事になるのかしら。でも私とユリシス様の関係って、手を差し伸べてくれる救世主と迷惑ばかりかけ続ける馬鹿者と言うような図式ではないだろうか。
「仲良く……とは言い難いかもしれません。私はユリシス様に迷惑ばかりかけているものですから……。」
「迷惑?どんな?」
良かったら話してごらんと言うフランシス様の言葉に甘えて、これまでの経緯をざっくりとだが説明していった。
フランシス様の過去を知っているせいなのだろうか、私は隠さずにユリシス様とシャルル様への揺れる気持ちも話した。
「………ふむ……。何と言うか、君も難儀な人生を送ってきたんだね。」
しばらくしてフランシス様が口を開いた。
「シモンが奥方を亡くしたと聞いた時は子供の君たちにまで思いを巡らす事をしなかったが、本当に大変だったね………。」
フランシス様は慈しむように言葉を紡いでくれる。
「………最初は、自分の事で精一杯でした。外の世界を知らなかった私には自分の過去を払拭する事で頭がいっぱいで……。
でも今は、ユリシス様やシャルル様にご迷惑をかける度に思うんです。申し訳ないと……。」
私の過去の体験なんて、お二人からすれば些末な事。そんな事に大事な時間を割かせて、あまつさえお二人のくれる優しさにどっぷりと甘えて……。それなのに私はお二人のために出来る事が何もない。
そう……何もないんだ。
自分がこれからどうしたいのか、目指す場所がわからない。ただお二人の示す方へ、光の差す方へと歩いて来ただけで、その先が何も見えていなかった。だから視野も狭くなり、お二人の態度に一喜一憂して、寄る辺を探していただけなのではないだろうか。
これはただの依存で、それを私は恋や愛なのかもしれないと勘違いしているのではないのだろうか………。
今まで誰にも話した事のない胸の内をフランシス様に打ち明けると、頭の中に次々と疑問が湧いてくる。
「君の過去が些末だなんて事はないよ。苦しみの感じ方は人それぞれ違うものだし。
経験した者にしかわからない苦しみを軽々しく扱う人間の方がよほど小者だよ。
ユリシスとシャルルの事も、君のためにというよりはおそらく自分のためにした事だろう。君が気に病む事など何もないのでは?」
「そうでしょうか………。」
私の返事にフランシス様はおやおやと言うような顔で微笑む。
「ねぇ、あの子達君にはどんな感じなの?」
どんな感じ?
「シャルル様は出会ったその日から一分のブレもありません。素直に感情豊かに感じた事をそのままぶつけてきて下さいます。人の心の機微や周りで起こる物事によく気が付き、いつもたくさん心を砕いて下さっています。」
「うん。じゃあユリシスは?」
「ユリシス様は………よくわかりません……。
再会したその日から、ずっと甘い言葉を囁いて下さいました。どんなにみっともない私でも優しく受け入れて下さり、行くべき道を標してくれるように言葉を下さいます。でも………」
「でも?何?」
「王妃様やシャルル様、姉や父から聞く限りですが、私の知っているユリシス様とは別人なのです。
私といる時のユリシス様は作り物でいらっしゃるのでしょうか……そう思っていたら、先日の夜会ではいきなり不機嫌になられたり、その……過剰に触れてこられたり……かと思えば今日は手にも触れて下さらないのです。まるで先日の事など無かったかのように。
何を考えていらっしゃるのかまるでわからなくて……。私が拒んでばかりいるからもう興味をなくされてしまったのだろうかと。そんな事を考え出したら止まらなくなってしまって……。
それからは嫌な未来ばかりが頭の中を過るんです。こんな事今まで考えた事も無かったのに。いつかユリシス様は誰か他の方をその腕に抱かれるのだろうかと思うと、胸が痛くて痛くてどうしようもなくて………。」
言い終わる前に涙が零れてしまう。
どうしてこんなに情緒不安定なのだろう。
あの夜会の後からだ。夜会が終わる頃には笑顔になれると思っていたのに。
「ふふふ。そんなに悲しいのに自分の心がわからないのは辛いね………。
君は同じ年頃の子が成長しながらごく普通に身に付けていく感情を覚える機会が無かった。
ただそれだけの事なんだと思うよ。だから君は何も悪くない。どちらかと言えばそんな君の状態を知って尚、事を急いだうちの甥っ子の方が大馬鹿者だよね。」
「そんな……そんな事は……。」
「そんな事あるよ。君は見た目こそ美しい淑女そのものだけれど、中身は幼い少女なんだ。それを一生懸命に大人の女性へと変わろうとしている最中に手を出すなんて………。
………ユリシスは本当に、自分でもどうしようもないくらい焦っているんだろうね。」
37
あなたにおすすめの小説
【完結】あなたを忘れたい
やまぐちこはる
恋愛
子爵令嬢ナミリアは愛し合う婚約者ディルーストと結婚する日を待ち侘びていた。
そんな時、不幸が訪れる。
■□■
【毎日更新】毎日8時と18時更新です。
【完結保証】最終話まで書き終えています。
最後までお付き合い頂けたらうれしいです(_ _)
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
2度目の結婚は貴方と
朧霧
恋愛
前世では冷たい夫と結婚してしまい子供を幸せにしたい一心で結婚生活を耐えていた私。気がついたときには異世界で「リオナ」という女性に生まれ変わっていた。6歳で記憶が蘇り悲惨な結婚生活を思い出すと今世では結婚願望すらなくなってしまうが騎士団長のレオナードに出会うことで運命が変わっていく。過去のトラウマを乗り越えて無事にリオナは前世から数えて2度目の結婚をすることになるのか?
魔法、魔術、妖精など全くありません。基本的に日常感溢れるほのぼの系作品になります。
重複投稿作品です。(小説家になろう)
私は貴方を許さない
白湯子
恋愛
甘やかされて育ってきたエリザベータは皇太子殿下を見た瞬間、前世の記憶を思い出す。無実の罪を着させられ、最期には断頭台で処刑されたことを。
前世の記憶に酷く混乱するも、優しい義弟に支えられ今世では自分のために生きようとするが…。
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
行動あるのみです!
棗
恋愛
※一部タイトル修正しました。
シェリ・オーンジュ公爵令嬢は、長年の婚約者レーヴが想いを寄せる名高い【聖女】と結ばれる為に身を引く決意をする。
自身の我儘のせいで好きでもない相手と婚約させられていたレーヴの為と思った行動。
これが実は勘違いだと、シェリは知らない。
断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる
葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。
アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。
アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。
市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。
塔に住むのは諸事情からで、住み込みで父と暮らしてます
ちより
恋愛
魔法のある世界。
母親の病を治す研究のため、かつて賢者が住んでいたとされる古塔で、父と住み込みで暮らすことになった下級貴族のアリシア。
同じ敷地に設立された国内トップクラスの学園に、父は昼間は助教授として勤めることになる。
目立たないように暮らしたいアリシアだが、1人の生徒との出会いで生活が大きく変わる。
身分差があることが分かっていても、お互い想いは強くなり、学園を巻き込んだ事件が次々と起こる。
彼、エドルドとの距離が近くなるにつれ、アリシアにも塔にも変化が起こる。賢者の遺した塔、そこに保有される数々のトラップや魔法陣、そして貴重な文献に、1つの意思を導きだす。
身分差意識の強い世界において、アリシアを守るため、エドルドを守るため、共にいられるよう2人が起こす行動に、新たな時代が動きだす。
ハッピーエンドな異世界恋愛ものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる