【本編完結】マリーの憂鬱

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3章

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成り行きでご一緒する事になってしまったけれど………どんなお話をすれば良いのかしら。
フランシス様は満天の星空を柔らかい表情でご覧になっている。

中性的で、とても美しい方。
王妃様と愛し合っていらした方なのよね………。
ダメだ。王妃様が赤裸々に語って下さったせいか、お話を思い出すと何とも言えない妙な表情になってしまう。


「ユリシスとはどう?仲良くやっているの?」


仲良く……やっている事になるのかしら。でも私とユリシス様の関係って、手を差し伸べてくれる救世主と迷惑ばかりかけ続ける馬鹿者と言うような図式ではないだろうか。


「仲良く……とは言い難いかもしれません。私はユリシス様に迷惑ばかりかけているものですから……。」


「迷惑?どんな?」


良かったら話してごらんと言うフランシス様の言葉に甘えて、これまでの経緯をざっくりとだが説明していった。
フランシス様の過去を知っているせいなのだろうか、私は隠さずにユリシス様とシャルル様への揺れる気持ちも話した。


「………ふむ……。何と言うか、君も難儀な人生を送ってきたんだね。」


しばらくしてフランシス様が口を開いた。


「シモンが奥方を亡くしたと聞いた時は子供の君たちにまで思いを巡らす事をしなかったが、本当に大変だったね………。」


フランシス様は慈しむように言葉を紡いでくれる。


「………最初は、自分の事で精一杯でした。外の世界を知らなかった私には自分の過去を払拭する事で頭がいっぱいで……。

でも今は、ユリシス様やシャルル様にご迷惑をかける度に思うんです。申し訳ないと……。」


私の過去の体験なんて、お二人からすれば些末な事。そんな事に大事な時間を割かせて、あまつさえお二人のくれる優しさにどっぷりと甘えて……。それなのに私はお二人のために出来る事が何もない。


そう……何もないんだ。
自分がこれからどうしたいのか、目指す場所がわからない。ただお二人の示す方へ、光の差す方へと歩いて来ただけで、その先が何も見えていなかった。だから視野も狭くなり、お二人の態度に一喜一憂して、寄る辺を探していただけなのではないだろうか。
これはただの依存で、それを私は恋や愛なのかもしれないと勘違いしているのではないのだろうか………。

今まで誰にも話した事のない胸の内をフランシス様に打ち明けると、頭の中に次々と疑問が湧いてくる。


「君の過去が些末だなんて事はないよ。苦しみの感じ方は人それぞれ違うものだし。

経験した者にしかわからない苦しみを軽々しく扱う人間の方がよほど小者だよ。

ユリシスとシャルルの事も、君のためにというよりはおそらく自分のためにした事だろう。君が気に病む事など何もないのでは?」


「そうでしょうか………。」


私の返事にフランシス様はおやおやと言うような顔で微笑む。


「ねぇ、あの子達君にはどんな感じなの?」


どんな感じ?


「シャルル様は出会ったその日から一分のブレもありません。素直に感情豊かに感じた事をそのままぶつけてきて下さいます。人の心の機微や周りで起こる物事によく気が付き、いつもたくさん心を砕いて下さっています。」


「うん。じゃあユリシスは?」


「ユリシス様は………よくわかりません……。

再会したその日から、ずっと甘い言葉を囁いて下さいました。どんなにみっともない私でも優しく受け入れて下さり、行くべき道を標してくれるように言葉を下さいます。でも………」


「でも?何?」


「王妃様やシャルル様、姉や父から聞く限りですが、私の知っているユリシス様とは別人なのです。
私といる時のユリシス様は作り物でいらっしゃるのでしょうか……そう思っていたら、先日の夜会ではいきなり不機嫌になられたり、その……過剰に触れてこられたり……かと思えば今日は手にも触れて下さらないのです。まるで先日の事など無かったかのように。
何を考えていらっしゃるのかまるでわからなくて……。私が拒んでばかりいるからもう興味をなくされてしまったのだろうかと。そんな事を考え出したら止まらなくなってしまって……。

それからは嫌な未来ばかりが頭の中を過るんです。こんな事今まで考えた事も無かったのに。いつかユリシス様は誰か他の方をその腕に抱かれるのだろうかと思うと、胸が痛くて痛くてどうしようもなくて………。」


言い終わる前に涙が零れてしまう。
どうしてこんなに情緒不安定なのだろう。
あの夜会の後からだ。夜会が終わる頃には笑顔になれると思っていたのに。


「ふふふ。そんなに悲しいのに自分の心がわからないのは辛いね………。

君は同じ年頃の子が成長しながらごく普通に身に付けていく感情を覚える機会が無かった。
ただそれだけの事なんだと思うよ。だから君は何も悪くない。どちらかと言えばそんな君の状態を知って尚、事を急いだうちの甥っ子の方が大馬鹿者だよね。」


「そんな……そんな事は……。」


「そんな事あるよ。君は見た目こそ美しい淑女そのものだけれど、中身は幼い少女なんだ。それを一生懸命に大人の女性へと変わろうとしている最中に手を出すなんて………。

………ユリシスは本当に、自分でもどうしようもないくらい焦っているんだろうね。」









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