【本編完結】マリーの憂鬱

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4章

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「ユリシスが気持ち悪い」



廊下で偶然出会ったサーリー様が開口一番私に言った。


“やぁ”とか“こんにちは”よりも先にそれ!?
しかも気持ち悪いって何!?



「あの……気持ち悪いって…何がですか?」


「いや……何がって言うかとにかく全てが気持ち悪い。そして怖い。何か知らないマリーちゃん??」




時は少し前に遡る。

長い時間睦み合った私達が気を失うように眠りについたのは明け方だった。

フランシス殿下がユリシス様に商談は出なくていいと言っていたので、目が覚めたら当然隣にいるものだと思っていたのに、彼の姿はどこにも見えなかった。

滞在中の世話をしてくれる年配の侍女に聞くと、ユリシス様はいつも通りに起きて商談へ出たらしい。

ユリシス様……ほとんど寝てないんじゃ……。

もしかしたら私の部屋から出てくるところを見られないよう配慮してくれたのかもしれない。婚約もまだなのに同衾するのは外聞も悪いし……でも私だけゆっくりしてしまって何だか申し訳ないわ。

男性達は商談ついでに昼食も一緒にとっているとのことで、侍女は私の部屋に軽食を用意してくれた。

昨晩ユリシス様がとてもとても愛して下さったお陰で立つのが少々辛い私には嬉しい配慮だ。もしかしたら普通にバレてるんじゃないだろうか……などと考えながらテーブルに置かれたサンドイッチを頬張る。


下半身にかなりの違和感を感じながらも部屋にこもりきりでは父に心配をかけるかと思い、廊下を歩いていたところ冒頭の会話に戻る。



「あいつ誰よりも先に部屋に来てて、俺が入るなり“おはよう”って言ったんだよ!!わかる!?“おはよう”だよ!?」


“おはよう”とは全人類共通の朝の挨拶のはずなのに、一体何がおかしいと言うのか。


「しかも俺にお、お茶を……あいつ自らお茶を淹れたんだよ!!!しかも美味いの!!」


美味しいなら良いではないか。サーリー様、本当に何が言いたいのだ。


「サーリー様?失礼ですがそんなに変な事ですか?まぁ…確かに王子自らお茶を淹れるという事に関しては珍しい事なのだろうと思いますけど……。」

「いやいやいやいや、一度口を開けば相手のメンタル丸ごと削り落とすようなユリシスがだよ!?珍しいどころの騒ぎじゃないよ!天変地異の前触れかもしれないよ!?」


私の婚約者(予定)の王子様は、挨拶してお茶を淹れるだけで未曾有の天変地異を引き起こせるお方だとは知らなかった………。


「あの…それでユリシス様は今どちらに?」

「あれ?マリーちゃんの様子見に行くって出て行ったんだけど会わなかった?ちょうど商談も終わって皆でお茶してんだ。マリーちゃんもおいで。そのうちユリシスも来るでしょ。」


行き違いになってしまったのかもしれない。
私はサーリー様の後について応接室へと向かった。


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