【本編完結】マリーの憂鬱

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4章

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「な、何の事を仰っているのかわかりませんわ?サラ様も……私が一体何の事件を起こしたと言うのです?」


「………鬼ごっこ」


ユリシス様のその一言にマチルド様の表情が凍りつく。熱っぽくユリシス様を見つめていた視線を下に落とし、両手でドレスを握り締めるようにしている。

「どうしたマチルド?殿下、一体鬼ごっこが何だと仰るのです?」


「ヘルマン。マチルドを大切に育てたであろう君に聞いてみたいんだが、子供の性根が歪む原因は何だと思う?」


ユリシス様の質問の意図が全くわからない。
彼は一体何をしようとしているのだろう。


「子供が歪む原因?あぁ、マリエル様の事でございますね………。母君を亡くされたのは誠にお気の毒ではありますが、それが他人を貶めて良い理由にはなりません。
おそらく……満たされない心を抱えてらしたのでしょうなぁ。埋めたくても埋められないそれのせいで、幸せそうな他者が羨ましくて羨ましくて仕方なかったのでしょう……。人間心が荒んでいる時などは、見るものすべてが妬ましく映るものです。」


「………そうか。君がそう言うのならその通りかもしれないね。ヘルマンは良い父親だ。ねぇ、マチルド?」


マチルド様の顔は蒼白だ。ユリシス様の問い掛けに小さく“はい”とだけ答える。


「ヘルマン…君の領地はフォンティーヌ公爵領のすぐ隣だったね。変わりないかい?」

「えぇ!我が領地は商業に力を入れておりまして、街は活気に溢れております。マチルドもよく視察と称して遊びに行っているのですよ。な、マチルド?」

ははは、と大きな声でヘルマン侯爵は笑う。

「商業が発展すれば税収も上がる。良い経営をしているのは聞いているよ。
マチルドもよく街へ出掛けているのかい?何をして過ごしているのか聞かせてくれないか?」

「私は女ですので…やはり女性が好む店を見て回っておりますわ……。」


「へぇ、人が大勢行き交う街の中を侯爵家の令嬢が?それなら当然馬車でだろうね。
あぁそうか、君のお気に入りは漆黒に塗られた美しい馬車だそうだね。サラに聞いたよ。」


「殿下……サラ様が何を仰ったのかはわかりませんが、ここ数年お会いしてないのは事実ですわ。けれど私には大切なお友達ですの。もちろんサラ様もそう思って下さっているはずです。サラ様の仰っている方と私は別の方だと思いますわ。」


「いいや、確かに君だよ。漆黒に塗られた馬車で街中を走り回り、“鬼ごっこ”と称して何の罪もない平民を轢き殺したのはね。」

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