139 / 331
5章
7
しおりを挟む「いつ会ったの?」
ユリシス様が驚いた顔で聞いてくる。
「先日……シャルル様を訪問した際偶然……。」
「シャルルのところに?いつ?何で私の所へ寄らなかったの?」
何でって………。
だって嫌だったんだもの。その日はシャルル様へきちんと向き合うために来たのだ。それなのにその帰りにユリシス様に会うのは何だか違う気がしたのだ。会えば絶対に甘い雰囲気になるだろう。人を傷付けた後にそれに浸るなんてとても出来ない。シャルル様にも失礼だと。
そう言えばその日マリアンヌ様はユリシス様に挨拶をしたと言っていた。
私の知らない所でどれくらい彼女と会ったのだろう。
どす黒い感情が再び襲い掛かってくるようだ。
「ユリシス様はお忙しかったんでしょ……その日マリアンヌ様はユリシス様にご挨拶に伺ったと仰ってました……。」
「あぁ……あの日か……。」
一体どんな話をしたのだろう。マリアンヌ様は陰気で人見知りな私と違って明るく溌剌とした女性だった。いかにも男性が好みそうな……。
王妃にどちらが相応しいかと聞かれたなら、きっと皆マリアンヌ様だと答える筈だ。
「マリー、明日からは護衛が付くことになるから大丈夫だとは思うけど、決して一人で行動する事は避けてくれ。お願いだ。」
ユリシス様の目は真剣だ。護衛の選定を急がなければならないどんな理由があると言うのだろう。
私の後をつけていた馬車といい、まだ正式に婚約すらしていない私に命を狙うほどの価値があるなんて到底思えないのだが……。
「私は今日、護衛の選定のために呼ばれたのですか……?」
ユリシス様は意外そうな顔で私を見る。
「マリー、確かにそれもあるけれど…本当にそれだけだと思ってるの?」
まるで心外だとでも言うように、少し切なそうな不機嫌そうな顔をする。
「わかりません……。今の私は……心からユリシス様の事を信じられない……こうして会っていても、どんなに説明されても不安で……。公爵邸に戻ればまたきっとそれに押し潰される日々が待ってる……。」
お互いの事だけ考えていられたあの三日間は幸せだった。人目を気にする事もない、二人だけの空間でただ愛し合った時間。
でもそこから一歩外に出れば彼はこの国の王子様で、次期国王で、私の事だけ考えてなどいられないのはよくわかって…………
ううん………本当はわかってないのかもしれない。彼に依存して……理解していない、受け入れてあげてないのは私の方じゃないの……?
わからない。経験したことのない気持ちが頭の中をぐるぐると回る。
彼を責めればそれは違うと言う自分がいる。
自分を責めれば彼のせいだと言う自分も。
ただ愛してるだけなのに……それだけなのに。
どうしてそれじゃ許して貰えないんだろう。
権力なんか欲しくない。ただ目の前のこの人と幸せになりたいだけなのに。
「ユリシス様と一緒じゃないと、嫌な考えばかりが頭に浮かんで離れなくなるの。だから離れたくない………離れたくないよ………」
泣きじゃくる私を膝の上に乗せて、彼はずっと頭を撫でてくれた。
27
あなたにおすすめの小説
【完結】あなたを忘れたい
やまぐちこはる
恋愛
子爵令嬢ナミリアは愛し合う婚約者ディルーストと結婚する日を待ち侘びていた。
そんな時、不幸が訪れる。
■□■
【毎日更新】毎日8時と18時更新です。
【完結保証】最終話まで書き終えています。
最後までお付き合い頂けたらうれしいです(_ _)
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
2度目の結婚は貴方と
朧霧
恋愛
前世では冷たい夫と結婚してしまい子供を幸せにしたい一心で結婚生活を耐えていた私。気がついたときには異世界で「リオナ」という女性に生まれ変わっていた。6歳で記憶が蘇り悲惨な結婚生活を思い出すと今世では結婚願望すらなくなってしまうが騎士団長のレオナードに出会うことで運命が変わっていく。過去のトラウマを乗り越えて無事にリオナは前世から数えて2度目の結婚をすることになるのか?
魔法、魔術、妖精など全くありません。基本的に日常感溢れるほのぼの系作品になります。
重複投稿作品です。(小説家になろう)
私は貴方を許さない
白湯子
恋愛
甘やかされて育ってきたエリザベータは皇太子殿下を見た瞬間、前世の記憶を思い出す。無実の罪を着させられ、最期には断頭台で処刑されたことを。
前世の記憶に酷く混乱するも、優しい義弟に支えられ今世では自分のために生きようとするが…。
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
行動あるのみです!
棗
恋愛
※一部タイトル修正しました。
シェリ・オーンジュ公爵令嬢は、長年の婚約者レーヴが想いを寄せる名高い【聖女】と結ばれる為に身を引く決意をする。
自身の我儘のせいで好きでもない相手と婚約させられていたレーヴの為と思った行動。
これが実は勘違いだと、シェリは知らない。
断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる
葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。
アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。
アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。
市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。
塔に住むのは諸事情からで、住み込みで父と暮らしてます
ちより
恋愛
魔法のある世界。
母親の病を治す研究のため、かつて賢者が住んでいたとされる古塔で、父と住み込みで暮らすことになった下級貴族のアリシア。
同じ敷地に設立された国内トップクラスの学園に、父は昼間は助教授として勤めることになる。
目立たないように暮らしたいアリシアだが、1人の生徒との出会いで生活が大きく変わる。
身分差があることが分かっていても、お互い想いは強くなり、学園を巻き込んだ事件が次々と起こる。
彼、エドルドとの距離が近くなるにつれ、アリシアにも塔にも変化が起こる。賢者の遺した塔、そこに保有される数々のトラップや魔法陣、そして貴重な文献に、1つの意思を導きだす。
身分差意識の強い世界において、アリシアを守るため、エドルドを守るため、共にいられるよう2人が起こす行動に、新たな時代が動きだす。
ハッピーエンドな異世界恋愛ものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる