【本編完結】マリーの憂鬱

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5章

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「いつ会ったの?」

ユリシス様が驚いた顔で聞いてくる。

「先日……シャルル様を訪問した際偶然……。」

「シャルルのところに?いつ?何で私の所へ寄らなかったの?」

何でって………。
だって嫌だったんだもの。その日はシャルル様へきちんと向き合うために来たのだ。それなのにその帰りにユリシス様に会うのは何だか違う気がしたのだ。会えば絶対に甘い雰囲気になるだろう。人を傷付けた後にそれに浸るなんてとても出来ない。シャルル様にも失礼だと。

そう言えばその日マリアンヌ様はユリシス様に挨拶をしたと言っていた。
私の知らない所でどれくらい彼女と会ったのだろう。
どす黒い感情が再び襲い掛かってくるようだ。


「ユリシス様はお忙しかったんでしょ……その日マリアンヌ様はユリシス様にご挨拶に伺ったと仰ってました……。」

「あぁ……あの日か……。」


一体どんな話をしたのだろう。マリアンヌ様は陰気で人見知りな私と違って明るく溌剌とした女性だった。いかにも男性が好みそうな……。
王妃にどちらが相応しいかと聞かれたなら、きっと皆マリアンヌ様だと答える筈だ。


「マリー、明日からは護衛が付くことになるから大丈夫だとは思うけど、決して一人で行動する事は避けてくれ。お願いだ。」


ユリシス様の目は真剣だ。護衛の選定を急がなければならないどんな理由があると言うのだろう。
私の後をつけていた馬車といい、まだ正式に婚約すらしていない私に命を狙うほどの価値があるなんて到底思えないのだが……。


「私は今日、護衛の選定のために呼ばれたのですか……?」

ユリシス様は意外そうな顔で私を見る。

「マリー、確かにそれもあるけれど…本当にそれだけだと思ってるの?」

まるで心外だとでも言うように、少し切なそうな不機嫌そうな顔をする。

「わかりません……。今の私は……心からユリシス様の事を信じられない……こうして会っていても、どんなに説明されても不安で……。公爵邸に戻ればまたきっとそれに押し潰される日々が待ってる……。」


お互いの事だけ考えていられたあの三日間は幸せだった。人目を気にする事もない、二人だけの空間でただ愛し合った時間。
でもそこから一歩外に出れば彼はこの国の王子様で、次期国王で、私の事だけ考えてなどいられないのはよくわかって…………

ううん………本当はわかってないのかもしれない。彼に依存して……理解していない、受け入れてあげてないのは私の方じゃないの……?


わからない。経験したことのない気持ちが頭の中をぐるぐると回る。
彼を責めればそれは違うと言う自分がいる。
自分を責めれば彼のせいだと言う自分も。

ただ愛してるだけなのに……それだけなのに。
どうしてそれじゃ許して貰えないんだろう。
権力なんか欲しくない。ただ目の前のこの人と幸せになりたいだけなのに。


「ユリシス様と一緒じゃないと、嫌な考えばかりが頭に浮かんで離れなくなるの。だから離れたくない………離れたくないよ………」



泣きじゃくる私を膝の上に乗せて、彼はずっと頭を撫でてくれた。






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