【本編完結】マリーの憂鬱

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7章

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    ……この国の王になる……?
    一体この人は何を言っているの。ガーランドの公爵がダレンシアの王になどなれる訳がない。いくらダレンシア王家の血が流れる身だとしても。

    「はは、いきなりすぎて訳がわからないよね。そんな顔してる。でも本当なんだ。もうそのための駒は揃えてある。あとは実行に移すだけだ。」

    そしてジョエル様の顔からは微笑みが消える。

    「駒を揃えるために幾つか危ない橋を渡った。よほど勘がいい人間でなければ気付かない程度だけれどね。だからリュカに命令したんだ。君のお姉さんが何かを掴んでしまったらその時は…殺せと。」

    目の前で暗幕を下ろされたようだ。この人が危ない橋を渡ったのはおそらくこの計画のため。そしてこの計画は私を手に入れるため。姉は私のために殺されたのだ。

    「…何故です?ガーランドを捨ててダレンシアで生きるなら、姉を殺す必要などなかったでしょう?それなのに何故?」

    「ガーランドで罪人と扱われる訳には行かないからだ。」

   「何故?さっきから全然話がわからない!」

    「ダレンシアを手に入れた後にガーランドを手に入れる。だからだ。」

    何……?今何て言ったの?ガーランドを手に入れる?

「ダレンシアを手に入れた後ガーランドへ戦争を仕掛ける。その時内通者が必要なんだ。だからマーヴェル家が罪人となる訳には行かない。マーヴェルに与する貴族達には協力してもらわねばならないからね。」

    ガーランドへ戦争を仕掛ける………。ではダレンシア国王の側にいる医者はこの人の手の者で間違いない……なんて事……。

    「あなたがダレンシアの王になるなら現王家の方達はどうなるのです?」

    「…それは彼らの出方次第だ。」

    素直に王座を渡さなければ殺すと言う事か。

    「この財政難のダレンシアが戦争などしたらどうなるか目に見えているでしょう?」

    「わかってる。だからあくまでもフリだ。深く争うつもりはない。」

    「フリ?」

    「皆が戦線に気を取られている間にガーランド王家の人間の首を取る。君を取り戻す時やったようにね。リュカなら容易くやってのけるだろう。」
 
    ……首を……取る……? ガーランド王家の?陛下や王妃様やシャルル様の?
    

    ユーリの首を………?



    「それさえうまくいけば余計な血は流さずガーランドが手に入る。」

    「…何で…何でそんな事しなくちゃいけないの?」

    「……ガーランドは君の生まれ故郷だ。あの療養院をはじめ大切ものがたくさんあるだろう?だから……。」

    「一体あなたは何を言っているの!?私を故郷に戻してあげたいとでも?それならこんなところに連れて来なければよかったじゃない!あのまま放っておいてくれればよかったのに何で大勢の命を奪ってまでこんな……!!」

    「君を救いたかったんだ!!でも今の…公爵と言う身分ではそれが出来ないからだ!」

    「私を……救う……?」

    「そうだ!殿下から救ってやりたかった!あの日…薔薇園で無理矢理殿下に抱かれる君を見てもう我慢が出来なかった!」

    あの薔薇園で…私がユーリを欲しがったあの時の事?まさか見てたの?でも無理矢理ってどういう事?…何を勘違いしてるの?

    「俺はあんな風に君を泣かせたりしない…これからは俺が毎日…毎日君を愛して幸せにしてあげる。だからすべてが終わったら最初からやり直そう?君が好きになってくれたあの日の俺が本当の俺だ。」

    「今のあなたは本当のあなたじゃないとでも?」

    「そうだ。すべてが終わればもう二度とこんな悪事に手を染める事はしない。民を正しく導いて生きて行く。…そして……そしてそのお腹の子の事も大切にする…約束だ。」


    違う…あなたは何もわかってない。今のあなたが紛れもない本当のあなただ。平気で悪事に手を染め、愛してると言いながら私の家族を殺し、今また大勢の人間の命を奪おうとしている。すべてが終わる?そんな日は永遠に来やしない。 罪は巡りまたいつか自分を襲う。そしてその度にあなたは人を殺めるのだ。それを私のためだと言いながら。
    どうしたらやめてくれる?どうしたらこれ以上殺さないでいてくれる?泣いて頼めばやめてくれる?あなたさえいればそれでいいと、そう言えばユーリを殺さないでいてくれる?

    「…ジョエル様…お願いだからこれ以上人を殺めるのはもうやめて…。私はあなたとお腹の子がいれば何もいらない。こんなことしなくてもこれからあなただけを愛して生きて行くから…だから……」

    「…マリー……!」

    ジョエル様は席を立ち私の隣へと座る。そして自分の方へと私を抱き寄せる。

    「大丈夫だよ…君にすべてを与えてあげる。王妃の座も、ガーランドも…君が望むなら何だって。愛してる…俺は君のためならどんな事でもしてみせる。」

    もう駄目だ…この人は止められない…。
    私がこの世にいる限りきっと…。それでも自ら命を絶つことは出来ない。この子を殺すことだけはどうしても出来ない。
    ごめんなさい。ごめんなさいユーリ。こんな男の側で生き長らえようとする浅ましい私をどうか許して。

    

    




    

    
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