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8章
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しおりを挟むこれは本当に私が訪れたあの城だろうか。
城門は爆破され瓦礫の山と化している。
ユリシスがその腕にマリーを抱いて城内に入ると、兵士達は驚きに目を見開いた。
さっきまで先頭に立ち続け、時に悪魔のような顔で戦っていたユリシスが、なんとも穏やかな表情で女性に頬を寄せている。
それにその腕の中の女性の美しさときたら…ダレンシアの女性とは違う白磁の肌。波打つ金の髪は日の光を受けてキラキラと輝いている。
こぼれ落ちそうなほどに潤む大きな空色の瞳はその場にいたすべての者を惹き付けた。
「マリー。お願いだから私の胸に顔を隠していてくれ。」
「どうして?」
「ダレンシア兵が皆君の美しさに釘付けになってる。勝手に君を瞳に映すなんて腹立たしい奴らだ。」
「腹立たしいって…」
さっきまで共に力を合わせて戦った仲間になんて言い種なのか。
けれどどんな時もこの人は変わらない。その事に少し安心する。
「マリエル様!!」
簡素なワンピースに身を包んだリンシア王女が私を見付けた途端急いで飛んできた。
「無事で良かった…!!」
そう言ってポロポロと泣く王女の背をクリストフ様が優しく擦る。
「リンシア王女も…それと、おめでとうございます。」
リンシア王女はボッと頬を赤く染め、アワアワしている。可愛い。
「ま、まだこれからですわ!お父様にも話してませんし!!」
「そう言えば陛下は?」
「お父様…フランシス様のお薬のお陰で一時は正気を取り戻したんですけど…」
ギヨームによって与え続けられた薬は思っていた以上にレオナルド国王の身体と精神を蝕んでいた。
「ギヨームの薬が切れた事で今は不安定になっていて…仕方なく今はベッドに拘束しています。」
「そうですか……。」
辛いがどうしようもない。この先禁断症状を克服出来るかはレオナルド国王にかかっている。
「…リンシア王女、大丈夫です。きっと大丈夫。レオナルド陛下はとても強いダレンシアの英雄なのでしょう?必ず勝って帰って来て下さいます。」
「えぇマリエル様。私も信じてる。…ありがとう。」
リンシア王女の顔に以前のような悲愴感はない。きっとこの国は立て直せる。そう感じた。
「マリエル様、とりあえずは私の宮へいらして下さい。奥に位置していたお陰で一番被害が少なくて。夜はユリシス殿下もご一緒にね?うふふ。」
「リ、リンシア王女!」
こんな時に申し訳ないと思うけど、ユーリと共にいられる事にどうしようもなく安堵してしまう。
「リンシア王女、早速だがお邪魔しても良いだろうか。マリーに話さければならない事がある。」
「わかりました。」
ユーリの言葉に何か思うところがあるのだろう。リンシア王女の顔が曇る。
“こちらへ”と導くように歩いて行くリンシア王女の後ろをついて行くが、さすがに抱かれたままなのは周りの視線もあり恥ずかしい。
「ユーリ、私もう一人で歩けるわ。」
さっきは足腰の力が抜けてしまって立てなかったけど、もう大丈夫だ。
「駄目。私が抱いていたいんだ。もう片時も君と離れていたくない。」
歩きながら私に顔を寄せる。
「うん…私もよ。」
誰にも見られないようにそっと唇を重ねると、切なそうだったユーリの顔に笑みが戻る。
「愛してるよ。」
ユーリはさっきより強く自分へ引き寄せるように私を抱き、リンシア王女の進む方へ歩き出した。
負傷した兵士の治療に人々が忙しく行き交う中、こちらを向いて佇む黒髪の女性がいた。
(何だろう…?)
何をするわけでもない。ただ私達が過ぎ行くのを黙って見ているだけだ。
(変な感じがしたのは気のせいかしら…)
ユーリを見上げると優しい微笑みが返ってくる。私は安心してその広い胸に身体を預けた。
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