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終章
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しおりを挟むガーランド第一王子ユリシスとフォンティーヌ公爵家の次女マリエルが結婚してから五年の歳月が経った。
あの日のユリシスの予言通り、二人の間に生まれた第一子は女の子だった。王女はエリシアと名付けられ、両親、そして祖父母、更には離れて暮らす叔父に溺愛されて育っていた。
エリシアが生まれて二年後、弟のルシウスとマリウスが年子で生まれ、そして今……
「ですから殿下…何度も申し上げておりますように、出産後は子宮が生まれ変わるので妊娠しやすくなるのです。二人きりの時間を楽しみたいと仰るならもう少し控えていただかないと…」
「何を言うか。子を産む度に美しくなる妻に手を出すなと言う方が無理だ。見ろ、マリーの輝かんばかりの美しさを。」
「でしたら今度ご出産を終えられて普段通りの生活に戻られましたら、マリエル様は避妊薬を飲むことをお勧め致します。マリウス様をご出産された後のマリエル様の回復は芳しくありませんでした。マリエル様の事を想うのならお身体への負担を考えた方が…。」
「……わかった。マリーが一番大事だ。この子が産まれたらそうしよう。」
マリーのお腹に第四子となる命が宿り、国中が歓喜に包まれる中ユリシスは医師から少しばかり叱られていた。
ユリシスに子が出来るのは非常に喜ばしい事ではあるが、こうも続けての出産となるとマリーの身体が心配される。しかし何度苦言を呈してもユリシスはマリーを求めてしまう。
気持ちはわからなくもない。王宮医はユリシスにバレないようにチラリとマリエルを覗き見た。
初めて診察した時は華奢で可憐な少女のようだったマリエルだが、三人の子を持つ母となった今は内から溢れんばかりの色香を放つようになった。その身体付きも柔らかで女らしい曲線を描き何とも扇情的である。
(確かに…これでは殿下が一日と我慢できないのも仕方ない。)
しかしユリシスが国王に即位する日はもうすぐそこまで迫っている。
初めての子、そして立て続けに年子を出産したマリーを気遣い国王ジュリアンと王妃リュシエンヌはユリシスの即位を遅らせてきた。
しかしこのまま放っておくと永遠に息子は可愛い嫁を孕ませ続けるかもしれないと、近々王位を退く決意を固めたのだ。
「おかあしゃま?おとうしゃまはおこられてるの?」
まだ幼いが父に似てとても賢い長男のルシウスは、マリーの膝の上で顔を上へ向けて聞いてきた。
「ふふ、お父様は怒られてるんじゃないの。お医者様はお母様の身体を心配してくれて、お父様に色々教えて下さってるの。」
「おとうしゃまはとってもえらいひとなのに、おしえてもらうの?」
「そうよ。人のお話を聞くというのはとても大切な事なのよ。ルシウスもできる?」
「はい!できましゅ!」
父親譲りの銀色の髪に碧い瞳の我が子は可愛い盛りだ。父親と違って素直な性根を持つルシウスは感じた事をよく口に出し、答えを貰ってはこれまた素直に受け取る。
「ルシウス、おいで。お母様を休ませてあげよう。」
背の高い父の抱っこが大好きなルシウスは目を輝かせて飛び付いた。
顔を寄せる二人は本当に瓜二つだ。
「本当にあなたの言う通り四人目が出来てしまったわね。」
「君が私の愛を漏れ無く受け取ってくれたお陰だ。…身体は大丈夫?」
「えぇ。エリシアの時は悪阻が酷かったけど、ルシウスとマリウスの時は平気だったし、今もとっても気分がいいのよ。だから心配しないで。」
妻の事となると常軌を逸するくらい心配性になるのに、閨では一切控えない夫を半ば諦めたようにマリーは見た。
「そう言えばエリシアは?」
「エリシア?うふふ…エリシアなら今頃大変な事になってると思うわ。だって今日は大切な人が来る日ですもの。」
マリーは含みのある笑いをユリシスへと向けた。
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