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 今日も宰相は部屋へやって来た。しかも見た事のないような笑顔で。

 「エリーシャ様、ご機嫌麗しゅうございます。お身体の具合はいかがですか?」

 挨拶の間も始終ニコニコと気持ち悪い。
 一体何があったのだろう。

 「実は……エリーシャ様に良いお話が届きまして……!」

 宰相はこちらが許可してもいないのに興奮気味に話し出した。
 良い話とは、関係悪化が懸念される隣国の第二王子から私宛に婚姻の打診があったとの事だった。 
 病弱で厄介者の第三王女エリーシャ。私の事を大して役に立つ事も無い穀潰しと諦めていた宰相にとって、これは正に降って湧いたような素晴らしい話だろう。

 「……父上は何と?」

 途端に宰相は無口になる。
 父も母も……二人の姉達も私には甘く優しい。
 だからこの話はきっと父から反対を受けた宰相が勝手に進めているのだろう。
 私が自ら進んで嫁ぐと言えば父も了承するだろうと思って……。

 「……申し訳ありませんが今日は気分が優れなくて……どうぞお引き取り下さいませ……。」

 宰相は不満げに部屋を後にした。来た時とは打って変わったような乱暴な足音が廊下から響いて来る。

 「本当に失礼な方ですわ!!水!!水撒きましょう!!」

 「ニナったら、私なら大丈夫よ。水なんて撒かないで。」

 この国は不吉な事があれば水を撒くのが決まりだ。けれど城の中では勿論だが禁止されている。

 「お水なら花にあげてちょうだい。ね?」

 ニナは渋々花に水をあげ始めた。
 
 宰相は悪くない。
 悪いのはなんの役にも立たない私。
 それなのに夢なんて見て……それに縋り付いて生きている。
 
 「あっ!そうだ姫様!」

 ニナが思い出したように声を上げた。

 「兄から知らせが来たんです!週末の竜騎士団のお休みの日の夜に竜の赤ちゃんを見せてくれるって!行きますよね!?」

 「本当に?…でも大丈夫なの?お兄さん、もし誰かにバレたら怒られてしまうんじゃない?」

 「それは大丈夫です!兄は叱られるのには慣れてますから!」

 自信満々に言うニナだった。




 
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