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 「久しぶりねエリーシャ。」

 急にやって来た姉は何かいつもと雰囲気が違う。

 「お姉様!会いに来てくれて嬉しいわ。でも急にどうしたの?」

 いつもなら私の身体を気遣って部屋に来る前に使いをよこすのに。

 「ええ、ちょっとね。」

 姉はそう言いながら部屋の中をキョロキョロと見回した。
 まるで何かの痕跡でも探すかのように。

 お茶の用意が出来たので二人で向かい合って座るとレオノールはおもむろに口を開いた。

 「最近身体の調子がいいみたいね。」

 あまり頻繁には会えないが、それでも姉が自分の身体をいつも気に掛けてくれている事にエリーシャは嬉しくなる。

 「そうなの!ここのところお熱も出ないのよ。きっとあの子のおかげだわ。」

 「あの子?」

 「竜の赤ちゃんがいるの!私、その子のお世話の手伝いをしてるのよ。」

 「竜のお世話?エリーシャが?何で?」

 レオノールはまるで意味がわからないという風な顔で矢継ぎ早に聞いてくる。
 エリーシャはこれまでのことを順に話していった。

 「そう……ノエルの子が……。」

 「そうなの。でも今はちゃんとミルクも飲んでくれるようになってとても元気よ。」

 今の話を聞く限り心配していたような事は何もなさそうである。
 しかしレオノールには嬉しそうに話す妹の顔がとても不愉快に感じた。

 「……あまりフィラン様に迷惑をかけちゃ駄目よ?親しくするだけならいいけれど、変な噂が立つような事は彼のためにならないわ。」

 「……変な噂……?」

 レオノールはカップを置きエリーシャの目を見た。

 「彼ほどの男性ならいいお話が山ほど来ているはずよ?それを潰すような事は控えた方がいいわ。」

 「それは……私が竜舎に通う事がフィラン様の迷惑になってるって事……?」

 そんなの考えた事もなかった。
 ただただ毎日が楽しくてそればかり……。

 「彼も身分が上のあなたには色々言いづらいだろうから……そこは察してあげなきゃね。」

 レオノールはそう言うと席を立ち、下を向いたまま顔を上げないエリーシャに“また来るわ”とだけ言い残して帰っていった。

 自分がフィランにそこまで迷惑をかけているなどと思いもしなかったエリーシャは、その夜ショックで久し振りに熱を出したのだった。
 
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