11 / 62
10
しおりを挟む「そんなに嫌だったなら、どうしてあの時なにも言わなかったの?」
シンシアは、母を盾にするように後ろに隠れながら、顔だけ出して問い掛けた。
「さっきからこうなったのは全部私たちのせいみたいに言ってるけど、婚約の組み替えを提案したのはユラン様じゃない。お姉さまだって反論しなかったわ」
確かにそうかもしれないが、決して納得していたわけじゃない。
唐突に、ユランにとってアルウェンは特別な存在ではなく、ふたりの婚約は互いの家のために結んだだけだという彼の中の真実を目の前で突きつけられ、なにも言えなくなってしまったのだ。
呆然自失だったのに加え、反論するのは惨めで嫌だった。
「もしかして……自分じゃ恥ずかしくて言えないから、周りに察して欲しいとでも思ってたの?だとしたら、お姉さまって意外に面倒くさい性格よね。私にはいつも偉そうにお説教するくせに、自分が困った時はなんにも言えなくなっちゃうなんて。そういうところ、ユラン様もうんざりしてたんじゃないかしら」
「なんですって!?」
「きゃあっ!!」
頭に血が上り、思わず振り上げてしまった手に、シンシアが悲鳴を上げた。
「アルウェン!!」
母がシンシアを庇うように前へ出た。
その険しい顔つきは、愛する我が子を守ろうとする母親そのもの。
(なんでシンシアだけ庇うの!?)
アルウェンだって、シンシアと同じく確かにその腹から生まれてきたはず。
初めて腕に抱いた我が子だろうに、どうして同じように愛してはくれないのか。
色んな感情がないまぜになり、熱いものが眦に向かってせり上がる。
「……ふたりとも、出て行って」
「アルウェン、お願いだからちゃんと話しましょう。わだかまりを残したままお別れしたくないわ」
「お別れ……ですって……?」
人々から恐れられている男の元に娘が嫁ぐというのに、『なにかあったらいつでも戻ってこい』とか『もしもの時は家門総出でお前を守る』と、例え嘘でも言ってはくれないのか。
お別れ──それは、決別に近い言葉。
まるで、ひとたびこの家を出たならお前は赤の他人だと言っているのに等しい。
「はっ、ははっ」
惨めで、馬鹿らしくて、妙な笑いが口から漏れる。
「ご安心くださいな、お母様。邪魔者はもう二度とこの家に戻る事はないでしょうから」
吐き捨てるように言うと、アルウェンは無理矢理ふたりを部屋から追い出した。
扉越しに母がアルウェンの名を呼んでいる。
しかしそれにアルウェンが答えることはなかった。
994
あなたにおすすめの小説
【完結】もう誰にも恋なんてしないと誓った
Mimi
恋愛
声を出すこともなく、ふたりを見つめていた。
わたしにとって、恋人と親友だったふたりだ。
今日まで身近だったふたりは。
今日から一番遠いふたりになった。
*****
伯爵家の後継者シンシアは、友人アイリスから交際相手としてお薦めだと、幼馴染みの侯爵令息キャメロンを紹介された。
徐々に親しくなっていくシンシアとキャメロンに婚約の話がまとまり掛ける。
シンシアの誕生日の婚約披露パーティーが近付いた夏休み前のある日、シンシアは急ぐキャメロンを見掛けて彼の後を追い、そして見てしまった。
お互いにただの幼馴染みだと口にしていた恋人と親友の口づけを……
* 無自覚の上から目線
* 幼馴染みという特別感
* 失くしてからの後悔
幼馴染みカップルの当て馬にされてしまった伯爵令嬢、してしまった親友視点のお話です。
中盤は略奪した親友側の視点が続きますが、当て馬令嬢がヒロインです。
本編完結後に、力量不足故の幕間を書き加えており、最終話と重複しています。
ご了承下さいませ。
他サイトにも公開中です
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません~死に戻った嫌われ令嬢は幸せになりたい~
桜百合
恋愛
旧題:もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません〜死に戻りの人生は別の誰かと〜
★第18回恋愛小説大賞で大賞を受賞しました。応援・投票してくださり、本当にありがとうございました!
10/24にレジーナブックス様より書籍が発売されました。
現在コミカライズも進行中です。
「もしも人生をやり直せるのなら……もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません」
コルドー公爵夫妻であるフローラとエドガーは、大恋愛の末に結ばれた相思相愛の二人であった。
しかしナターシャという子爵令嬢が現れた途端にエドガーは彼女を愛人として迎え、フローラの方には見向きもしなくなってしまう。
愛を失った人生を悲観したフローラは、ナターシャに毒を飲ませようとするが、逆に自分が毒を盛られて命を落とすことに。
だが死んだはずのフローラが目を覚ますとそこは実家の侯爵家。
どうやらエドガーと知り合う前に死に戻ったらしい。
もう二度とあのような辛い思いはしたくないフローラは、一度目の人生の失敗を生かしてエドガーとの結婚を避けようとする。
※完結したので感想欄を開けてます(お返事はゆっくりになるかもです…!)
独自の世界観ですので、設定など大目に見ていただけると助かります。
※誤字脱字報告もありがとうございます!
こちらでまとめてのお礼とさせていただきます。
公爵令嬢は逃げ出すことにした【完結済】
佐原香奈
恋愛
公爵家の跡取りとして厳しい教育を受けるエリー。
異母妹のアリーはエリーとは逆に甘やかされて育てられていた。
幼い頃からの婚約者であるヘンリーはアリーに惚れている。
その事実を1番隣でいつも見ていた。
一度目の人生と同じ光景をまた繰り返す。
25歳の冬、たった1人で終わらせた人生の繰り返しに嫌気がさし、エリーは逃げ出すことにした。
これからもずっと続く苦痛を知っているのに、耐えることはできなかった。
何も持たず公爵家の門をくぐるエリーが向かった先にいたのは…
完結済ですが、気が向いた時に話を追加しています。
妾の嫁入り
クマ三郎@書籍&コミカライズ3作配信中
恋愛
古川家当主の妾の子として生まれ育った紫乃は、母を早くに亡くし、父の本妻とその息子から虐げられて暮らしてきた。
二十歳になった紫乃は、ある日突然深川の名家水無瀬家へ行くように命じられる。
紫乃に与えられた役目は【妾】として生きること。
てっきり父より年上の男の妾になるのだと思っていた紫乃だったが、相手は水無瀬家の嫡男瑛久であるという。
瑛久には既に妻がいたが、夫妻はどうにもできない不幸を抱えていた。
少しずつ心を通わせていく瑛久と紫乃。
しかし瑛久の妻蒔子は次第に心を壊していく──
【12話完結】私はイジメられた側ですが。国のため、貴方のために王妃修行に努めていたら、婚約破棄を告げられ、友人に裏切られました。
西東友一
恋愛
国のため、貴方のため。
私は厳しい王妃修行に努めてまいりました。
それなのに第一王子である貴方が開いた舞踏会で、「この俺、次期国王である第一王子エドワード・ヴィクトールは伯爵令嬢のメリー・アナラシアと婚約破棄する」
と宣言されるなんて・・・
婚約七年目、愛する人と親友に裏切られました。
彼方
恋愛
男爵令嬢エミリアは、パーティー会場でレイブンから婚約破棄を宣言された。どうやら彼の妹のミラを、エミリアがいじめたことになっているらしい。エミリアはそのまま断罪されるかと思われたが、彼女の親友であるアリアが声を上げ……
酒の席での戯言ですのよ。
ぽんぽこ狸
恋愛
成人前の令嬢であるリディアは、婚約者であるオーウェンの部屋から聞こえてくる自分の悪口にただ耳を澄ませていた。
何度もやめてほしいと言っていて、両親にも訴えているのに彼らは総じて酒の席での戯言だから流せばいいと口にする。
そんな彼らに、リディアは成人を迎えた日の晩餐会で、仕返しをするのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる