【本編完結】アルウェンの結婚

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 「そんなに嫌だったなら、どうしてあの時なにも言わなかったの?」

 シンシアは、母を盾にするように後ろに隠れながら、顔だけ出して問い掛けた。

 「さっきからこうなったのは全部私たちのせいみたいに言ってるけど、婚約の組み替えを提案したのはユラン様じゃない。お姉さまだって反論しなかったわ」

 確かにそうかもしれないが、決して納得していたわけじゃない。
 唐突に、ユランにとってアルウェンは特別な存在ではなく、ふたりの婚約は互いの家のために結んだだけだという彼の中の真実を目の前で突きつけられ、なにも言えなくなってしまったのだ。
 呆然自失だったのに加え、反論するのは惨めで嫌だった。

 「もしかして……自分じゃ恥ずかしくて言えないから、周りに察して欲しいとでも思ってたの?だとしたら、お姉さまって意外に面倒くさい性格よね。私にはいつも偉そうにお説教するくせに、自分が困った時はなんにも言えなくなっちゃうなんて。そういうところ、ユラン様もうんざりしてたんじゃないかしら」

 「なんですって!?」

 「きゃあっ!!」

 頭に血が上り、思わず振り上げてしまった手に、シンシアが悲鳴を上げた。

 「アルウェン!!」

 母がシンシアを庇うように前へ出た。
 その険しい顔つきは、愛する我が子を守ろうとする母親そのもの。
 (なんでシンシアだけ庇うの!?)
 アルウェンだって、シンシアと同じく確かにその腹から生まれてきたはず。
 初めて腕に抱いた我が子だろうに、どうして同じように愛してはくれないのか。
 色んな感情がないまぜになり、熱いものが眦に向かってせり上がる。

 「……ふたりとも、出て行って」

 「アルウェン、お願いだからちゃんと話しましょう。わだかまりを残したままお別れしたくないわ」

 「お別れ……ですって……?」

 人々から恐れられている男の元に娘が嫁ぐというのに、『なにかあったらいつでも戻ってこい』とか『もしもの時は家門総出でお前を守る』と、例え嘘でも言ってはくれないのか。
 お別れ──それは、決別に近い言葉。
 まるで、ひとたびこの家を出たならお前は赤の他人だと言っているのに等しい。
 
 「はっ、ははっ」

 惨めで、馬鹿らしくて、妙な笑いが口から漏れる。

 「ご安心くださいな、お母様。邪魔者はもう二度とこの家に戻る事はないでしょうから」

 吐き捨てるように言うと、アルウェンは無理矢理ふたりを部屋から追い出した。
 扉越しに母がアルウェンの名を呼んでいる。
 しかしそれにアルウェンが答えることはなかった。








 
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