12 / 62
11
しおりを挟む母と妹を部屋から追い出した日から、アルウェンは家族と顔を合わせるのを徹底して避けるようになった。
食事は部屋で取り、用事はすべて使用人を通して済ませた。
勿論両親やシンシアからは色々言われたが、幸いにも長年仕えてくれている使用人たちがうまく間に入って味方をしてくれたのは、アルウェンにとって唯一の救いだった。
子どもっぽいことをしていると思われたかもしれない。
けれど、これ以上自分の心をすり減らすのは御免だった。
数日して、皇宮から派遣された仕立て屋が、花嫁衣装の採寸のためシャトレ侯爵家を訪れた。
大量の生地見本を抱えてくるだろうと思い、あらかじめ家具を寄せ、たっぷりと作業スペースを設けて迎えたのだが、入室してきた女性らの手には、鞄の持ち手しか握られていない。
彼女たちは簡単に挨拶を済ますと、その鞄から巻き尺や筆記用具などを取り出し、仕事に取り掛かる。
「ご機嫌よう。ねえ、生地の見本はどこかしら?」
図々しくもシンシアは、まるで自分が立ち会うのは当然とばかりに部屋に入ってきた。
皇宮へ献上されている生地に興味があるのだろう。
「アン、シンシアを外に出してちょうだい」
「どうしてよ!見るくらい別にいいでしょう!?」
シンシアは声を荒げ、侍女の制止を振り切った。
そして作業中の女性に近寄る。
「ねえあなた、生地はどこにあるの?装飾用の宝石やスパンコールは?」
「ご用意しておりません」
「どうして?」
「皇太子殿下のご命令により、婚儀に間に合わせるため、デザインなどは私どもに一任するとのこと」
「じゃあなに?自分が着るウェディングドレスなのに、お姉さまは何も選ばせてもらえないってこと?」
無言の肯定をする女性たちとは対照的に、シンシアは込み上げる嗤いを堪えるのに必死なようだった。
「そんなのってあんまりだわ。ねえ、お姉さま」
袖で口元を覆い、表情を取り繕うシンシア。
ざまあみろとでも言いたげな、人を小馬鹿にした態度に、無言の女性たちも眉をひそめた。
しかし当の本人は、愉快で仕方ないといった感じで、気づきもしなかった。
「……お急ぎのようでしたら、こちらで用意できます。せめてヴェールだけでも構わないので、持参することはできますか」
例え相手が違うとしてもせめて、丹精込めて作り上げたヴェールを身につけることは叶わないだろうか。
祈るような気持ちで告げたアルウェンだったが、女性から返ってきた言葉に凍りついた。
「過去は全部捨てていただくよう仰せつかっております」
皇太子──サリオンは、アルウェン側の事情をすべて把握していて、あえてこのような仕打ちをしているのだ。
「大丈夫よお姉さま。あのヴェールとウェディングドレスは私が貰ってあげるから。よかったぁ。さすが皇太子殿下ね。これでお姉さまに恨まれずに済むわ」
「誰があなたになんて……!例え着ることができなくても、シンシア、あなたにだけは絶対に渡さないから!」
シンシアは、声を荒げるアルウェンを横目に、軽い足どりで部屋を出て行った。
878
あなたにおすすめの小説
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
公爵令嬢は逃げ出すことにした【完結済】
佐原香奈
恋愛
公爵家の跡取りとして厳しい教育を受けるエリー。
異母妹のアリーはエリーとは逆に甘やかされて育てられていた。
幼い頃からの婚約者であるヘンリーはアリーに惚れている。
その事実を1番隣でいつも見ていた。
一度目の人生と同じ光景をまた繰り返す。
25歳の冬、たった1人で終わらせた人生の繰り返しに嫌気がさし、エリーは逃げ出すことにした。
これからもずっと続く苦痛を知っているのに、耐えることはできなかった。
何も持たず公爵家の門をくぐるエリーが向かった先にいたのは…
完結済ですが、気が向いた時に話を追加しています。
妹と再婚約?殿下ありがとうございます!
八つ刻
恋愛
第一王子と侯爵令嬢は婚約を白紙撤回することにした。
第一王子が侯爵令嬢の妹と真実の愛を見つけてしまったからだ。
「彼女のことは私に任せろ」
殿下!言質は取りましたからね!妹を宜しくお願いします!
令嬢は妹を王子に丸投げし、自分は家族と平穏な幸せを手に入れる。
【完結】もう誰にも恋なんてしないと誓った
Mimi
恋愛
声を出すこともなく、ふたりを見つめていた。
わたしにとって、恋人と親友だったふたりだ。
今日まで身近だったふたりは。
今日から一番遠いふたりになった。
*****
伯爵家の後継者シンシアは、友人アイリスから交際相手としてお薦めだと、幼馴染みの侯爵令息キャメロンを紹介された。
徐々に親しくなっていくシンシアとキャメロンに婚約の話がまとまり掛ける。
シンシアの誕生日の婚約披露パーティーが近付いた夏休み前のある日、シンシアは急ぐキャメロンを見掛けて彼の後を追い、そして見てしまった。
お互いにただの幼馴染みだと口にしていた恋人と親友の口づけを……
* 無自覚の上から目線
* 幼馴染みという特別感
* 失くしてからの後悔
幼馴染みカップルの当て馬にされてしまった伯爵令嬢、してしまった親友視点のお話です。
中盤は略奪した親友側の視点が続きますが、当て馬令嬢がヒロインです。
本編完結後に、力量不足故の幕間を書き加えており、最終話と重複しています。
ご了承下さいませ。
他サイトにも公開中です
もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません~死に戻った嫌われ令嬢は幸せになりたい~
桜百合
恋愛
旧題:もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません〜死に戻りの人生は別の誰かと〜
★第18回恋愛小説大賞で大賞を受賞しました。応援・投票してくださり、本当にありがとうございました!
10/24にレジーナブックス様より書籍が発売されました。
現在コミカライズも進行中です。
「もしも人生をやり直せるのなら……もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません」
コルドー公爵夫妻であるフローラとエドガーは、大恋愛の末に結ばれた相思相愛の二人であった。
しかしナターシャという子爵令嬢が現れた途端にエドガーは彼女を愛人として迎え、フローラの方には見向きもしなくなってしまう。
愛を失った人生を悲観したフローラは、ナターシャに毒を飲ませようとするが、逆に自分が毒を盛られて命を落とすことに。
だが死んだはずのフローラが目を覚ますとそこは実家の侯爵家。
どうやらエドガーと知り合う前に死に戻ったらしい。
もう二度とあのような辛い思いはしたくないフローラは、一度目の人生の失敗を生かしてエドガーとの結婚を避けようとする。
※完結したので感想欄を開けてます(お返事はゆっくりになるかもです…!)
独自の世界観ですので、設定など大目に見ていただけると助かります。
※誤字脱字報告もありがとうございます!
こちらでまとめてのお礼とさせていただきます。
双子の妹を選んだ婚約者様、貴方に選ばれなかった事に感謝の言葉を送ります
すもも
恋愛
学園の卒業パーティ
人々の中心にいる婚約者ユーリは私を見つけて微笑んだ。
傍らに、私とよく似た顔、背丈、スタイルをした双子の妹エリスを抱き寄せながら。
「セレナ、お前の婚約者と言う立場は今、この瞬間、終わりを迎える」
私セレナが、ユーリの婚約者として過ごした7年間が否定された瞬間だった。
【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて
ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」
お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。
綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。
今はもう、私に微笑みかける事はありません。
貴方の笑顔は別の方のもの。
私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。
私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。
ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか?
―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。
※ゆるゆる設定です。
※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」
※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる