【本編完結】アルウェンの結婚

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 テーブルの上に置かれていたのは、生クリームがたっぷりのったパンケーキ。
 色とりどりのフルーツに果実のソース、蜂蜜も添えてある。
 アルウェンは、まさかの大好物の登場に、大きな瞳をさらに丸くして驚いた。
 
 「どうした、嫌いなものでもあったか」

 「いえ、あの……パンケーキは大好きです」

 「そうか。料理長が気を遣ったんだろう」

 「それと、この星形の果物がとっても美しくて……!」

 皿の上にのっていたフルーツの中でひときわ目立つ、切り口が星形の透き通る黄色い果実。
 初めて目にするそれに、アルウェンの目は釘付けになった。
 
 「南の島国の特産品だ。今回、結婚祝いの品とともに届けられた」

 「“南の島国”と申されますと……もしかしてオスリアですか?」

 「そうだ、よくわかったな」

 サリオンは驚いたような顔でアルウェンを見た。
 ハイリンデンと交易があり、友好国である南の島といえばオスリアしかない。
 小さな島国だが、温暖な気候と温かな人柄、そして様々な生物が生息することもあり、多様な猟法と食文化を有するとか。

 「地図と書物でしか知りませんが、まさかこんな美しい果物がそこここに生えているなんて……まるで夢の国ですね」

 「さすがにそこらへんに普通には生えてないだろ。オスリアの特産品だぞ。いや、俺も詳しくは知らないが」

 「あ、確かに……」

 夢のような見た目につられ、柄にもなくメルヘンな想像にふけってしまった。

 「とにかく、気に入ったならよかった。冷めないうちに食べろ」

 「あの、殿下は?」

 アルウェンの問い掛けに答えるように、サリオンは侍従に書類を片付けさせ、食事を運ばせた。
 ハイリンデンの戦神の朝食は、さぞかし精のつくものかと思いきや、彼の前に運ばれてきたのはアルウェンと同じパンケーキ。
 しかも量は倍だ。

 「あの、殿下はもしかして甘党でいらっしゃるのですか?」

 昨夜の甘口のワインといい、これまで聞いていた皇太子サリオン像からは、どれも想像がつかない嗜好ばかり。

 「嫌いじゃないが、特別好きなわけでもない」

 「それなら無理せずとも──」

 「家族とは、同じものを食べるものだろう」

 驚いた。
 サリオンは、アルウェンを家族として扱う気があるらしい。
 昨夜の失態から、この先良好な関係を育む未来は断たれたと思っていた。
 しかし、いったいどんな奇跡が起きたのかはわからないが、サリオンとアルウェンの未来は、まだかろうじて繋がっていたようだ。
 サリオンは食べ慣れないのか、パンケーキを切るまでは良いが、山盛りの生クリームとフルーツをどうすべきか逡巡していた。
 そんなサリオンの姿がなんだか可愛らしくて、アルウェンは自然と笑顔になった。

 「殿下、生クリームにはこうやって果実のソースをかけるとしつこくなくて食べやすいですよ」

 アルウェンが先にそうして見せると、サリオンは素直に真似をした。
 パンケーキと生クリーム、そして果実のソースのマリアージュ。
 それを口に含んだ彼の表情から、どうやら酸味のある甘いソースがお気に召したようだ。
 
 「……うまい」

 「ふふ。生クリームも、フルーツと交互に食べるとしつこくなくて美味しいですよ」

 結局サリオンはアルウェンに言われるまま、山盛りのパンケーキを完食したのだった。

 
 
 


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