【本編完結】アルウェンの結婚

クマ三郎@書籍&コミカライズ3作配信中

文字の大きさ
22 / 62

21

しおりを挟む




 思いの外楽しい新婚初日の朝食だったが、食後のお茶を飲み終わる頃になっても、アルウェンは肝心なことを聞けずにいた。
 その『肝心なこと』とは、昨夜自分たちの間に身体の交わりはあったのか否か。
 アルウェンは、再び書類に目を通し始めたサリオンを、紅茶を飲むフリをしながらこっそり観察する。
 彼がどんな人なのかはまだよくわからないが、寝ている婦女子に手を出すような不埒者には見えない。
 それに、アルウェンを家族としては認めてくれたようだが、元から妻として扱う気はなかったはず。
 その結果アルウェンは『多分なにもなかった』と自身の中で結論づけた。
 きっと昨夜寝室を共にしたのは、初夜の契りを終えたという事実を周りに知らしめるためであり、彼は紳士らしくベッドをアルウェンに譲り、部屋に置いてあるソファで寝たのだろう。

 「じゃあな」

 茶を飲み終えたサリオンは、執務室へ行くという。
 
 「あの、私になにかお手伝いできることはありますか?」

 「焦るな。まずはここでの暮らしに慣れることからだ」

 もちろん『慣れる』の言葉を額面通り受け取るアルウェンではない。
 おそらく皇太子妃として、まずはこの宮の掌握から始めろということなのだろう。
 扉へ向かうサリオンを追いかけ、一緒に部屋を出たアルウェンは、宮殿の出口で彼を見送った。

 「行ってらっしゃいませ」

 サリオンは驚いた顔でアルウェンの方を振り返る。

 「あの、なにか?」

 「いや……行って、くる」

 アルウェンは、サリオンの姿が見えなくなったのを確認し、部屋へ戻った。
 それから一時間後。
 ようやく落ちつけたと思った矢先、扉の向こう側が騒がしいことに気づいたアルウェンは、すぐさま控えていた侍女を呼んだ。

 「なにかあったの?」

 「それが、サウラ妃殿下が突然いらして」

 侍女によると、サリオンと対立するサウラ妃が、アルウェンに直接祝いの言葉を述べたいと、大勢の侍女を引き連れてやってきたのだという。
 いくら同じ皇宮内とはいえ、訪問には前もって相手方の許可がいる。
 しかも侍女を大勢引き連れてきたというあたり、それもアルウェンに断らせないための策略だろう。
 皇妃の侍女となれば、ほぼ全員、名のある家門の出身で間違いない。
 彼女らと揉めれば、その後ろに控えるそれぞれの生家とも面倒なことになる。
 サリオンは、自身の不在中はいかなる者も宮殿に入れぬよう言いつけていったそうで、現在アルマがサウラ妃の対応に追われているという。

 「このことをすぐにサリオン殿下へ報告するよう侍従に伝えて。それと、サウラ妃殿下を中に」

 「妃殿下、ですが……!」

 「大丈夫。あなたはすぐにお茶の用意をお願い」

 どの道これ以上の足止めは難しいだろう。
 遅かれ早かれ通る道だ。
 アルウェンは気を引き締めた。






しおりを挟む
感想 106

あなたにおすすめの小説

『やりたくないからやらないだけ 〜自分のために働かない選択をした元貴族令嬢の静かな失踪〜』

鷹 綾
恋愛
「やりたくないから、やらないだけですわ」 婚約破棄をきっかけに、 貴族としての役割も、評価も、期待も、すべてが“面倒”になった令嬢ファーファ・ノクティス。 彼女が選んだのは、復讐でも、成り上がりでもなく―― 働かないという選択。 爵位と領地、屋敷を手放し、 領民の未来だけは守る形で名領主と契約を結んだのち、 彼女はひっそりと姿を消す。 山の奥で始まるのは、 誰にも評価されず、誰にも感謝せず、 それでも不自由のない、静かな日々。 陰謀も、追手も、劇的な再会もない。 あるのは、契約に基づいて淡々と届く物資と、 「何者にもならなくていい」という確かな安心だけ。 働かない。 争わない。 名を残さない。 それでも―― 自分の人生を、自分のために選び切る。 これは、 頑張らないことを肯定する物語。 静かに失踪した元貴族令嬢が、 誰にも縛られず生きるまでを描いた、 “何もしない”ことを貫いた、静かな完結譚。

【完結】もう誰にも恋なんてしないと誓った

Mimi
恋愛
 声を出すこともなく、ふたりを見つめていた。  わたしにとって、恋人と親友だったふたりだ。    今日まで身近だったふたりは。  今日から一番遠いふたりになった。    *****  伯爵家の後継者シンシアは、友人アイリスから交際相手としてお薦めだと、幼馴染みの侯爵令息キャメロンを紹介された。  徐々に親しくなっていくシンシアとキャメロンに婚約の話がまとまり掛ける。  シンシアの誕生日の婚約披露パーティーが近付いた夏休み前のある日、シンシアは急ぐキャメロンを見掛けて彼の後を追い、そして見てしまった。  お互いにただの幼馴染みだと口にしていた恋人と親友の口づけを……  * 無自覚の上から目線  * 幼馴染みという特別感  * 失くしてからの後悔   幼馴染みカップルの当て馬にされてしまった伯爵令嬢、してしまった親友視点のお話です。 中盤は略奪した親友側の視点が続きますが、当て馬令嬢がヒロインです。 本編完結後に、力量不足故の幕間を書き加えており、最終話と重複しています。 ご了承下さいませ。 他サイトにも公開中です

王族の言葉は鉛より重い

Vitch
恋愛
 フォークライン公爵の娘であるミルシェ。  彼女は間違い無く公爵の血を引く娘だった。  あの日までは……。

婚約破棄の代償

nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」 ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。 エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。

冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

見捨ててくれてありがとうございます。あとはご勝手に。

有賀冬馬
恋愛
「君のような女は俺の格を下げる」――そう言って、侯爵家嫡男の婚約者は、わたしを社交界で公然と捨てた。 選んだのは、華やかで高慢な伯爵令嬢。 涙に暮れるわたしを慰めてくれたのは、王国最強の騎士団副団長だった。 彼に守られ、真実の愛を知ったとき、地味で陰気だったわたしは、もういなかった。 やがて、彼は新妻の悪行によって失脚。復縁を求めて縋りつく元婚約者に、わたしは冷たく告げる。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

妾の嫁入り

クマ三郎@書籍&コミカライズ3作配信中
恋愛
古川家当主の妾の子として生まれ育った紫乃は、母を早くに亡くし、父の本妻とその息子から虐げられて暮らしてきた。 二十歳になった紫乃は、ある日突然深川の名家水無瀬家へ行くように命じられる。 紫乃に与えられた役目は【妾】として生きること。 てっきり父より年上の男の妾になるのだと思っていた紫乃だったが、相手は水無瀬家の嫡男瑛久であるという。 瑛久には既に妻がいたが、夫妻はどうにもできない不幸を抱えていた。 少しずつ心を通わせていく瑛久と紫乃。 しかし瑛久の妻蒔子は次第に心を壊していく──

処理中です...