【本編完結】アルウェンの結婚

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 「近衛騎士の中にはまだまだ優秀な奴が大勢いる。他を見ずに決めていいのか」

 「確かに感情的になっている今、これが正しい判断かと問われれば、私も答えに悩みます。ですが……」

 アルウェンは、ドドとエニスをちらりと見た。
 二人とも、不安と期待の入り混じった表情でこちらを見ている。

 「私、この二人にすっかり心を持っていかれてしまいました」

 「心を持っていかれた」

 「はい。二人がこれまで歩んできた道のりに対しても、尊敬の念を禁じ得ません。ドドとエニスであれば、安心してこの命を任せられます」

 「安心してこの命を任せられる」

 「はい。あの……殿下?」

 オウム返しのサリオンを不思議に思ったアルウェンは首を傾げた。

 「いいだろう」

 「殿下!ありがとうございます!!」

 すぐさまドドとエニスに駆け寄り、『これからどうぞよろしくね』と、それぞれと握手を交わすアルウェン。
 すると頭上から、いつものそれよりずっと低い声が降ってきた。
 
 「本当におまえの命を任せられるのかどうか、おれが試してやろう」

 「え?あの……殿下?」

 サリオンは羽織っていた上着を乱暴に脱ぎ捨て、オルハンに剣を持ってくるよう言いつけた。
 アルウェンは一気に血の気が引いた。

 「あ、あの……ドド、エニス、どうしましょう。私のせいで……!」

 戦場において、彼の通ったあとには血の河ができるという【ハイリンデンの戦神】。
 なにぶんこのような場所とは無縁だったアルウェンは、彼の言う『試す』がどの程度のものかわからない。
 ドドとエニスに怪我を負わせる事態になったらどうしよう──頭の中は不安でいっぱいだった。

 「妃殿下、我々なら大丈夫です」

 ドドの言葉にエニスも頷いた。
 
 「殿下の信用を得られないようでは、妃殿下をお守りする資格はありません」

 サリオンと二人は中央に歩み出た。
 皇太子自らが剣を取り、妃の護衛の力量を測るというこの事態に、中央を取り囲むようにして続々と人だかりができ始めた。

 「どちらからでもいいぞ」

 前に出たのはドド。
 サリオンの倍はあろうかという体格差に、アルウェンの喉がゴクリと鳴った。
 審判を務めるオルハンから開始の合図がなされ、それと同時にドドがサリオン目がけて大きく剣を振り下ろした。

 「ひっ!!」

 金属のぶつかり合う音が空気中を伝わって鼓膜に届き、アルウェンは小さく悲鳴を上げた。
 正面から受け止めたサリオンはたじろぎもせず、なんと、腕の太さも倍のドドを押し返し始めた。
 ドドはすぐさま後退り、体勢を整える。
 そして剣をまるで槍を操るようにして激しい刺突を繰り出してきた。
 しかしそれを軽々と受け流すサリオンは、驚くべきことに最初の立ち位置から一歩も動いていない。
 徐々に乱れるドドの呼吸。
 勝敗がついたのはほんの一瞬のことだった。
 再び力いっぱい振り下ろされた剣を、サリオンが下から薙ぎ払うようにして弾き飛ばした。
 
 「勝負あり!!」

 場内に響くオルハンの声。
 ドドは悔しさの滲む顔でその場に膝をついた。

 「力任せだが、悪くない」

 失格だとでも思っていたのか、サリオンの声かけにより、淀んでいたドドの瞳に希望の光が宿る。

 「いざとなったらその身体で盾になれ。わかったな」

 「あ、有難き幸せ!!」

 どうやらドドはサリオンのお眼鏡に適ったようだ。
 ドドが下がるのと同時に前へ出たエニス。
 その真剣な表情に、再び空気が緊張した。
 開始の合図が聞こえても、エニスはサリオンとの間合いを測り、すぐには打って出ない。
 相手の出方を窺っているようだが、サリオンは剣を構えるでもなく、ただ静かにエニスを視界に映すだけ。
 エニスは覚悟を決めたようにサリオンに向かって踏み出した。
 攻撃の型を流れるように変えて連続で繰り出すエニスの剣技は、まるで剣舞のように美しく、アルウェンは思わず口を開けて見惚れてしまった。

 「すごい……!」

 しかしアルウェンが感嘆の声を漏らした瞬間、サリオンはエニスに向かって大きく踏み込み急所を狙う。
 (こ、殺されちゃう……!!)
 青ざめるアルウェンだったが、サリオンの剣先は急所を貫くことなく寸前で止まった。

 「技術は問題ないが、それに慢心すれば身を滅ぼすぞ。もっと実戦を学べ」

 「はっ!」

 エニスは跪き、深く頭を下げた。
 (す、すごい……)
 【ハイリンデンの戦神】を物語の中の人物のように思っていたが、それは現実に存在する人で、尚且つアルウェンの夫なのだ。
 
 ──とんでもない人の元へ嫁いでしまった

 今さらながらに、サリオンの凄さを実感したアルウェン。

 「おい」

 「は、はい!」

 突然話しかけられ、アルウェンは小さく飛び上がる。

 「この二人で問題はないだろう」

 「はい。殿下、その……」

 「なんだ」

 「私のために自ら剣を手に……ありがとうございます」

 「……おう」

 ぶっきらぼうな返事だったが、ほんの少しだけ、彼の口端の位置が上のような気がしたのは見間違いだろうか。

 こうして無事アルウェンは二人の護衛を手に入れたのだった。
 
 
 




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