幸せにするって言ったよね

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プロローグ

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 行き先も告げられないまま父に連れられて訪れたのは、王都の一等地に建つ白亜の大豪邸。
 
 「エリーゼ、お前の婚約者になるお方だよ」

 目の前に立つ少年の顔を見るなり、雷に打たれたような衝撃を受けた。
 そして自分の意志とは関係なく脳内に流れ込んでくる膨大な情報。
 
 見たこともない都市。
 妙なデザインの服を着て、早朝から深夜まで働く女性。
 やがてわたしは、それが前世の自分の姿だと気付いた。
 (そうだ……わたし、この後車に……)
 この日の帰宅途中、エナドリを買うためにコンビニに寄った。
 なぜなら買ったばかりのゲームの続きをプレイするために、自分に喝を入れようと思ったから。
 しかし、眠気を飛ばしてくれるというその商品を飲もうと勢い良く上を向いた瞬間、酷い目眩に襲われた。
 視界がぐるぐると回り、ふらつく足で車道に飛び出してしまったわたしは、後ろからきた車に轢かれてしまった。
 宙を舞う身体と、道路一面に広がる真っ赤な血。
 その呆気ない死に様が脳内を流れていった直後、わたしは立ったまま気を失ったのだった。


 意識を取り戻した私の目に映ったのは、見知らぬ部屋の真っ白な天井。

 「……大丈夫?」

 声のした方に視線だけ向けると、そこには倒れる直前に出会った少年がいた。
 (このビジュアル……間違いないわ……)
 肩まである美しい銀の髪に、大粒のエメラルドをはめ込んだような瞳を持つ少年。
 彼は、私が前世でプレイ途中だった十八禁乙女ゲームの攻略対象者、ノクティス・ラクリモサ公爵だ。

 そして悲しいかなわたしは彼に殺される婚約者、エリーゼ・ベットーニ。
 
 「ノクティス様」

 上半身を起こし、ノクティスさまの手を取る。
 その瞬間彼はビクッと震えたが、振り払われはしなかった。
 わたしは大きく息を吸い込み、彼の宝石のような目を真っ直ぐに見た。
 
 「この婚約に納得されていない事は承知しております。ですがどうか少しだけ我慢して、わたしにお時間をいただけますか?」

 「……あなたに時間をあげたら……どうなるのです?」

 「必ずや婚約解消をして、ノクティス様が幸せになれるようにいたします」

 ノクティスさまは驚いたように目を見開き、しばらく無言でわたしの顔を見つめていた。






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