幸せにするって言ったよね

クマ三郎@書籍&コミカライズ3作配信中

文字の大きさ
2 / 22

1 とんでもねぇ父親だよ

しおりを挟む




 エリーゼの父、アントニオ・ベットーニ伯爵は、とんでもない悪人だった。

 遡る事ゲーム開始時から二十年前。
 大きな戦争で財政が逼迫ひっぱくしたこの国は、爵位に対するスタンスを大きく変化させた。
 王家は国民に対し『金銭的に国家に大きく貢献した者には爵位を与える』と呼びかけ、大々的に寄付を募った。
 当時、多大な財産を持つ実業家であったアントニオは、王家への莫大な寄付と引き換えに、子爵の地位を得た。
 しかしそれだけでは我慢できなかったアントニオは、金に物を言わせ、没落寸前であったベットーニ伯爵家の令嬢と半ば強引に婚約し、婿養子に入ったのだ。

 そうして生まれたのがわたし、エリーゼ・ベットーニ伯爵令嬢。
 このゲームのヴィラン──いわゆる悪役令嬢というやつだ。

 父アントニオの悪行は、その後もとどまる事を知らず、敵対する貴族たちを次々と罠にめては沈めていった。
 ノクティスとエリーゼの婚約も、公爵家の権威と人脈を欲したアントニオが仕組んだものだった。
 アントニオは、ノクティスの父母であるラクリモサ公爵夫妻を事故に見せかけて暗殺し、尚且つ公爵家の執事をそそのかして多額の横領をさせた。
 だが公爵家との縁を繋ぐためとはいえ、なぜ困窮させる必要があったのか。
 縁戚関係になった後のことを考えれば、汚点を残すような真似は悪手だと誰もが思うだろう。
 だがそれには理由があった。
 この国には、公爵家との縁組みを望める家門が数多く存在するからだ。
 名ばかりだとしても、彼らはそのプライドの高さから、何より家格を重視する。
 しかし相手が明日をもしれない暮らしを強いられていたとしたら?
 この国は現状、名はあっても実がない家門がほとんどだ。
 多額の負債を補って余りある財産を保有するのはベットーニ伯爵家しかいない。
 いかにも悪人が考えそうな筋書きだ。

 格下の、しかも商人上がりの男の娘との婚約は、王家の血を引く誇り高きラクリモサ公爵家の跡継ぎにとっては屈辱以外の何物でもなかった。
 けれど援助を受けている以上、アントニオを無碍むげにはできないノクティスは、やり場のない憎しみを徐々にエリーゼへとぶつけるようになっていく。
 ゲームでのエリーゼは、美しいノクティスに一目で心を奪われ、一途に彼を想い続ける健気な子だった。
 悪役令嬢ポジションではあるものの、やってる事は口喧嘩レベルのいさかいばかり。
 父親の極悪エフェクトのせいで悪役にさせられてしまったようなものだ。
 けれどノクティスはエリーゼには見向きもせず、やがて現れるヒロインに恋をするようになる。
 ヒロインは隣国の王女で、ある時期に使節団の一員としてこの国へやってくる。
 エリーゼは彼女に嫉妬はするものの、直接危害を加えるような事はしなかった。
 やったのはやはりというか、父アントニオ。
 ヒロインに恋をしたノクティスが、エリーゼとの婚約解消を申し出るのではないかと危惧したアントニオは、なんと大胆にもヒロインの毒殺を図るのだ。
 しかもその実行役は、父親の企みなど何も知らないエリーゼ。
 万が一を想定し、実の娘を生贄に差し出そうと考えた父は正真正銘のどクズだ。
 結局計画は失敗し、エリーゼは怒り狂ったノクティスにその場で刺殺される。
 幸か不幸かそのルートでノクティスとヒロインは結ばれない。
 プレイ途中だったため、そのエンドしか知らないわたしにとっては、エリーゼの死とノクティスの幸せが直結しないのがせめてもの救いだ。
 
 婚約の顔合わせが行われたという事は、既にノクティスの父母は父によって殺害され、執事の横領も行われてしまっている。
 始まる前から詰みの状態で涙が出るが、こうなったら生き残るために必死で知恵を振り絞るしかない。 
 (まずは公爵家の経済的自立のために、悪者退治ね……!)
 執事の悪事を暴いて追い出すのは簡単だろうが、その後ろには父アントニオがいる。
 例え現執事を追い出しても、第二第三の横領執事が誕生するだけ。
 さて、どうしたものか。
 
 
 


しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

誰も愛してくれないと言ったのは、あなたでしょう?〜冷徹家臣と偽りの妻契約〜

山田空
恋愛
王国有数の名家に生まれたエルナは、 幼い頃から“家の役目”を果たすためだけに生きてきた。 父に褒められたことは一度もなく、 婚約者には「君に愛情などない」と言われ、 社交界では「冷たい令嬢」と噂され続けた。 ——ある夜。 唯一の味方だった侍女が「あなたのせいで」と呟いて去っていく。 心が折れかけていたその時、 父の側近であり冷徹で有名な青年・レオンが 淡々と告げた。 「エルナ様、家を出ましょう。  あなたはもう、これ以上傷つく必要がない」 突然の“駆け落ち”に見える提案。 だがその実態は—— 『他家からの縁談に対抗するための“偽装夫婦契約”。 期間は一年、互いに干渉しないこと』 はずだった。 しかし共に暮らし始めてすぐ、 レオンの態度は“契約の冷たさ”とは程遠くなる。 「……触れていいですか」 「無理をしないで。泣きたいなら泣きなさい」 「あなたを愛さないなど、できるはずがない」 彼の優しさは偽りか、それとも——。 一年後、契約の終わりが迫る頃、 エルナの前に姿を見せたのは かつて彼女を切り捨てた婚約者だった。 「戻ってきてくれ。  本当に愛していたのは……君だ」 愛を知らずに生きてきた令嬢が人生で初めて“選ぶ”物語。

王子殿下の慕う人

夕香里
恋愛
【本編完結・番外編不定期更新】 エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。 しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──? 「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」 好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。 ※小説家になろうでも投稿してます

愛しき夫は、男装の姫君と恋仲らしい。

星空 金平糖
恋愛
シエラは、政略結婚で夫婦となった公爵──グレイのことを深く愛していた。 グレイは優しく、とても親しみやすい人柄でその甘いルックスから、結婚してからも数多の女性達と浮名を流していた。 それでもシエラは、グレイが囁いてくれる「私が愛しているのは、あなただけだよ」その言葉を信じ、彼と夫婦であれることに幸福を感じていた。 しかし。ある日。 シエラは、グレイが美貌の少年と親密な様子で、王宮の庭を散策している場面を目撃してしまう。当初はどこかの令息に王宮案内をしているだけだと考えていたシエラだったが、実はその少年が王女─ディアナであると判明する。 聞くところによるとディアナとグレイは昔から想い会っていた。 ディアナはグレイが結婚してからも、健気に男装までしてグレイに会いに来ては逢瀬を重ねているという。 ──……私は、ただの邪魔者だったの? 衝撃を受けるシエラは「これ以上、グレイとはいられない」と絶望する……。

二年間の花嫁

柴田はつみ
恋愛
名門公爵家との政略結婚――それは、彼にとっても、私にとっても期間限定の約束だった。 公爵アランにはすでに将来を誓い合った女性がいる。私はただ、その日までの“仮の妻”でしかない。 二年後、契約が終われば彼の元を去らなければならないと分かっていた。 それでも構わなかった。 たとえ短い時間でも、ずっと想い続けてきた彼のそばにいられるなら――。 けれど、私の知らないところで、アランは密かに策略を巡らせていた。 この結婚は、ただの義務でも慈悲でもない。 彼にとっても、私を手放すつもりなど初めからなかったのだ。 やがて二人の距離は少しずつ近づき、契約という鎖が、甘く熱い絆へと変わっていく。 期限が迫る中、真実の愛がすべてを覆す。 ――これは、嘘から始まった恋が、永遠へと変わる物語。

口は禍の元・・・後悔する王様は王妃様を口説く

ひとみん
恋愛
王命で王太子アルヴィンとの結婚が決まってしまった美しいフィオナ。 逃走すら許さない周囲の鉄壁の護りに諦めた彼女は、偶然王太子の会話を聞いてしまう。 「跡継ぎができれば離縁してもかまわないだろう」「互いの不貞でも理由にすればいい」 誰がこんな奴とやってけるかっ!と怒り炸裂のフィオナ。子供が出来たら即離婚を胸に王太子に言い放った。 「必要最低限の夫婦生活で済ませたいと思います」 だが一目見てフィオナに惚れてしまったアルヴィン。 妻が初恋で絶対に別れたくない夫と、こんなクズ夫とすぐに別れたい妻とのすれ違いラブストーリー。 ご都合主義満載です!

恋人でいる意味が分からないので幼馴染に戻ろうとしたら‥‥

矢野りと
恋愛
婚約者も恋人もいない私を憐れんで、なぜか幼馴染の騎士が恋人のふりをしてくれることになった。 でも恋人のふりをして貰ってから、私を取り巻く状況は悪くなった気がする…。 周りからは『釣り合っていない』と言われるし、彼は私を庇うこともしてくれない。 ――あれっ? 私って恋人でいる意味あるかしら…。 *設定はゆるいです。

貴方が私を嫌う理由

柴田はつみ
恋愛
リリー――本名リリアーヌは、夫であるカイル侯爵から公然と冷遇されていた。 その関係はすでに修復不能なほどに歪み、夫婦としての実態は完全に失われている。 カイルは、彼女の類まれな美貌と、完璧すぎる立ち居振る舞いを「傲慢さの表れ」と決めつけ、意図的に距離を取った。リリーが何を語ろうとも、その声が届くことはない。 ――けれど、リリーの心が向いているのは、夫ではなかった。 幼馴染であり、次期公爵であるクリス。 二人は人目を忍び、密やかな逢瀬を重ねてきた。その愛情に、疑いの余地はなかった。少なくとも、リリーはそう信じていた。 長年にわたり、リリーはカイル侯爵家が抱える深刻な財政難を、誰にも気づかれぬよう支え続けていた。 実家の財力を水面下で用い、侯爵家の体裁と存続を守る――それはすべて、未来のクリスを守るためだった。 もし自分が、破綻した結婚を理由に離縁や醜聞を残せば。 クリスが公爵位を継ぐその時、彼の足を引く「過去」になってしまう。 だからリリーは、耐えた。 未亡人という立場に甘んじる未来すら覚悟しながら、沈黙を選んだ。 しかし、その献身は――最も愛する相手に、歪んだ形で届いてしまう。 クリスは、彼女の行動を別の意味で受け取っていた。 リリーが社交の場でカイルと並び、毅然とした態度を崩さぬ姿を見て、彼は思ってしまったのだ。 ――それは、形式的な夫婦関係を「完璧に保つ」ための努力。 ――愛する夫を守るための、健気な妻の姿なのだと。 真実を知らぬまま、クリスの胸に芽生えたのは、理解ではなく――諦めだった。

貴妃エレーナ

無味無臭(不定期更新)
恋愛
「君は、私のことを恨んでいるか?」 後宮で暮らして数十年の月日が流れたある日のこと。国王ローレンスから突然そう聞かれた貴妃エレーナは戸惑ったように答えた。 「急に、どうされたのですか?」 「…分かるだろう、はぐらかさないでくれ。」 「恨んでなどいませんよ。あれは遠い昔のことですから。」 そう言われて、私は今まで蓋をしていた記憶を辿った。 どうやら彼は、若かりし頃に私とあの人の仲を引き裂いてしまったことを今も悔やんでいるらしい。 けれど、もう安心してほしい。 私は既に、今世ではあの人と縁がなかったんだと諦めている。 だから… 「陛下…!大変です、内乱が…」 え…? ーーーーーーーーーーーーー ここは、どこ? さっきまで内乱が… 「エレーナ?」 陛下…? でも若いわ。 バッと自分の顔を触る。 するとそこにはハリもあってモチモチとした、まるで若い頃の私の肌があった。 懐かしい空間と若い肌…まさか私、昔の時代に戻ったの?!

処理中です...