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15 ノクティス④
しおりを挟む『どうやったらエリーゼを救えるんだ!』
王女はしばらく考え込んだあと、再び口を開いた。
『残念だけど、エリーゼ・ベットーニはどのシナリオでも命を落とすの。だけど……』
『だけど?』
『ノクティスがエリーゼを愛するシナリオは……つまりあなたの今の状態はどのシナリオにもないの。もっと言えば隠しエンドにもないストーリーだわ。ノクティス、もしかしたらエリーゼは、あなたと結ばれれば死なずに済むのかもしれない』
『僕と結ばれれば……?』
迷う必要なんてなかった。
それから僕は、ゲームの内容についてアシュリー王女から詳しく聞き、対策を立てる事にした。
そして導き出した答えが【使節団を歓迎する宴の最中、衆人環視の中、エリーゼに結婚を申し込む】というものだった。
宴には国中の貴族──もちろんベットーニ伯爵も招待されている。
皆が注目する場で、僕がいかにエリーゼに夢中であるか、恋をして愛しているかを伝えれば、僕とエリーゼはゲームのシナリオから退場できるはず。
だがそれは、僕の申し出をエリーゼが承知してくれるのが前提だ。
計画が進む中、不安を拭えないでいる僕の背中をアシュリー王女がバンバン叩いた。
『エリーゼはどのストーリーでもあなたを愛してたわ!だから安心しなさいよ』
何というか最近の王女とは、もはや女友達というより男友達に近い関係だ。
王女はさらに発破をかける。
『本番はビシッと決めなさいよ!なんてったって素材は抜群なんだから、髪型も服装も最高の状態で臨みなさい!』
言われてみれば、これまで公爵領の財政を気にして、余計な出費は極力控えてきた。
けれど、愛する人のために最高の自分を見せたい。
エリーゼにも僕に恋をして貰いたいし、あわよくば愛して欲しい。
そうして僕は、帰宅するなりすぐさま公爵家お抱えの仕立て屋を呼んだのだった。
***
「あらまあ!さすが攻略対象者、美しいわぁ!目の保養だわぁ!」
フガフガと荒い鼻息がかかりそうな距離で、アシュリー王女もどきが僕をうっとり眺めている。
「近すぎるし、その『攻略対象者』って呼び方やめてくれない?」
「いいじゃない。あぁ、あの子も元気でやってるかしら」
僕たちがすっかり打ち解けたのには理由があった。
彼女が自分のこれまでの人生を話してくれたからだ。
前世での彼女の名前は【よしこ】で、享年四十八歳。
彼女の世界で言うところの【がん】という病気で亡くなったそうだ。
そして彼女には今年二十三歳になる息子がいたという。
「手に職があるし、ひとりでちゃんとご飯食べれてるみたいだから心配してないけどね」
だが、息子の事を語る時の彼女の笑顔はいつもほんの少し寂しそうだ。
「それにしても今日は髪型も服装もバッチリじゃない!安心しなさい、絶対に成功するから」
──もしも母上が生きていたら、彼女のように僕を心配してくれたのだろうか
服装や髪型にお節介を焼き、発破をかけて……
いつの間にか僕は、よしこを通して今は亡き母親を見ていた。
そうして果たされなかった日々への思いを昇華していたのだ。
「あらぁ、凄い人ね」
会場である大広間は、既に招待客で賑わっていた。
「エリーゼちゃん、きっとあなたに見惚れちゃうわね。あの可愛い顔を真っ赤にして……ああ、考えるだけで私も興奮しちゃうわ!」
「何でよしこが興奮するんだよ」
「するわよ!あんた、結婚式には絶対呼んでよね!」
まるで本当に母親のような事を言うものだから、思わず笑ってしまった。
けれど、エリーゼの反応がよしこの言う通りなら僕も嬉しい。
いつも表情を崩さない彼女が、僕の姿を見て戸惑うのを見てみたい。
「ちょっと、ニヤつきすぎだからシャキッとしなさい」
「はいはい……あれ……?」
「どうしたの?」
「……エリーゼが……いない」
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