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 この十年、いつも心を弾ませながら通ったアカデミーへの道のり。
 けれど今日、講堂へ向かうリーリアの足取りは重かった。

 ──お会いしたらまず最初に謝るべきかしら……

 パティ曰く、ユーインは決してリーリアに怒っているわけではないと言うのだが、気分を害するきっかけを作ったのは間違いなく自分だ。
 だからこそユーインも、わざわざリーリアがひとりになったタイミングで話しかけてきたのだろう。
 おそらく大勢の生徒の前で、リーリアひとりを注意するのが憚られたから……何ともユーインらしい優しさだ。

 卒業まで僅かな時間しか残されていないリーリアは、残りの日々を気まずいまま過ごすのが嫌だった。
 やっぱりちゃんと謝ろう、そう心に決めた時、少し離れた廊下の先に、白いローブを纏う白髪の男性の後ろ姿が見えた。

 ──ユーイン様だ……!

 あの美しい白髪は、間違いない。
 十年も想い続けた人だ。例え後ろ姿だとしても見間違えたりはしない。
 リーリアの心臓がドクンと大きく跳ねた。
 
 ──どうやって切り出そう……
 
 心の準備ができないままリーリアが歩を進めていくと、話し声が聞こえてきた。
 どうやらユーインは誰かと会話をしているようだった。
 背の高いユーインに隠れて相手の姿はよく見えないし、会話の内容まではわからないが、この廊下はドーム状になっていて声はよく響く。
 聞こえてくる声に意識を集中すると、どうやらユーインと話しているのは女性のようだった。

 「面倒なことを頼んですまないな……後で必ず礼をする」

 「やだなぁ、私とお前の仲だろ?礼なんていらないよ」

 

 聞いたことのないユーインの優しい声音に、さっきまでうるさかった心臓が急に鳴り止み、今度は血の気が引くような感覚に襲われる。
 相手はいったい誰なのだろう。
 ユーインの身体越しに、黒い衣服がちらちらと見える。
 黒のローブは黒魔道師が身につける物。
 ならば女性は黒魔道師か。
 このままふたりの横を通り過ぎるのはあまりにも気まずかった。
 しかし引き返したくても講堂はもう目と鼻の先だ。
 後ろからは同じ講義を受ける生徒たちも歩いて来ている。
 何とか平静を保とうと、リーリアは胸を抑えながら前へ進んだ。
 そして、リーリアは女性の姿を見た。

 「それにしても相変わらず自分のことには無頓着なんだから……ほら、ずれてるよ」

 そう言うと女性はユーインの胸元の徽章に手をやった。

 「ああ。ありがとう、イゾルデ」

 ユーインが僅かに見せた微笑みが、リーリアの胸を抉った。

 
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