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しおりを挟む「あの日……初めて殿下に触れた日の事は今でも忘れられません……」
「ドニエの森で、抱き上げてくださった時ですか?」
その腕の中を思い出し、恥ずかしそうに頬を染めるリーリアに、ユーインは目を細めた。
けれど優しそうに細まる瞳の奥は依然として妖しさを秘めていて、リーリアの心は落ちつかない。
「ええ。まだ幼かった殿下には、さぞかし恐ろしかった事でしょう……ですが殿下は救助されるやいなや、自分の事は二の次で、何よりも先に従者たちの無事を私に確認された。あの時は本当に驚きました……小さくて軽くて、信じられないほどに華奢な身体を抱き上げた時、その温かな体温の中に、計り知れない生命の重みを感じたのです。思えばあの時から既に殿下は私にとって特別な存在でした」
「ユーイン様……」
「それからでしたね……殿下がアカデミーへ通うようになったのは。またしても驚かされました。王族である高貴な方が……しかも魔力を持たないのにアカデミーの講義を受けたいだなんて」
聞けばユーインは、元々アカデミーの講師を務めていた訳ではなかったそうだ。
何度か打診されていたそうなのだが、普段寡黙な彼に講師の職は性に合わないと、断り続けていたらしい。
「臨時で何度か講義を受け持つ事はあったのですが……」
確かに、リーリアが初めてアカデミーで受けた講義はユーインではなかった。
──まさか、ユーイン様が講義を受け持つようになったのって……
窺うような視線を送ると、ユーインはその通りだと言うように微笑んだ。
そして、「あなたから目が離せなかったのだ」と。
「戯れなのかと思っていたのですが……殿下が本気だったのだと知り、講師に名を連ねる事を決めました」
──そんなこと、全然知らなかった
「誰かをこんなにも特別に想う事は初めてでした。しかし、私と殿下はひと回りも歳が……だからこの気持ちは、肉親に抱くようなものなのだと思って疑わなかった」
あの頃既に成人を迎えていたユーインが、ひと回りも歳が下のリーリアに、女を感じられないのは当然の事。
なぜだかイゾルデの顔が脳裏をよぎり、ほんの少しだけ、チクリと胸が痛んだ。
だがしかし、それをユーインは見逃さなかった。
大きな手が再び首筋を撫で、そのまま後頭部へと回る。
ドクン、と大きく胸が跳ねるのと同時に、形の良い唇がリーリアのそれに重なった。
ほんの一瞬、ふわりと触れて、離れる。
驚いて声も出ないリーリアに、羽根のような口付けが二度、三度と落とされる。
「……殿下と出会ってから今日まで、こんな風に異性に触れた事はありません。出会った頃、確かにあなたはまだ幼かった。けれど……殿下が大人の女性へと姿を変えるまで、本当にあっという間でしたよ。それこそ最近は、不安で胸が焼けるようだった……」
「不安……どうしてユーイン様が?不安だったのは私の方なのに……」
「あなたは……まるで分かっていない。周りの男たちがどんな目であなたを見ているのか。こんなにも魅力的なあなたを……」
目元を朱に染めるユーインの吐息が熱い。
そして鳴りを潜めていたドロドロとした感情のうねりが、再び彼の瞳の奥に姿を現した。
「んっ……!!ん、ふ……ぅ……」
キスをされる寸前、恐怖にも似た何かを感じ、喉がひゅっと音を立てた。
大きな左手は頭の後ろを。そして右手は頬から耳を包み、リーリアから逃げ場を奪う。
厚みのある熱い舌がリーリアの唇を割り、歯列をなぞり、戸惑う舌を絡め取る。
──これは……本当に、ユーイン様なの……!?
いつも冷静で表情を崩さない彼が、我を忘れたようにリーリアの唇を求めていた。
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