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しおりを挟む「ユーイン!今までどこに行ってたんだ……ってお前、その恰好……昨日の夜会のままじゃないか」
宿舎に戻るなり、イゾルデから呼び止められた。
その慌てた様子から察するに、ずっと自分を探していたようだ。
「ああ、今から着替える。何かあったのか?」
今日はアカデミーも休日で、来客の予定もなかったはず。
しかし、イゾルデの口から出た言葉は、ユーインの問いかけに対する答えではなかった。
「……まさかお前、今までずっとリーリア殿下と一緒に……?」
イゾルデの声が、僅かに震えている。
「そうだが……どうした?」
「そう……そうか……良かったじゃないか!それにしても水臭いなぁ。殿下とそういう仲だったなら、隠さず言ってくれればいいだろ?お陰で昨夜は腰が抜けるほど驚いたよ。まさかお前が結婚するなんて」
違和感を感じたものの、すぐにいつもの調子に戻ったイゾルデに、ユーインは苦笑いする。
「驚かせてすまないな。だが、想いが通じたのは最近の事なんだ。結婚については……こんな忙しい時に悪いと思っている。だがなるべく迷惑はかけないようにするつもりだ」
「ああ……そうだな。それで、早速なんだけど……オスカーが来てるよ。多分、昨夜の事も含め、話があるんだと思う」
「……そうか。早めに戻る」
「ああ。それまでオスカーは私が相手をしておくよ。でも、この貸しは後で倍にして返せよな」
「わかった。ありがとう、イゾルデ」
ユーインは同僚の気遣いに感謝し、自室へと向かった。
*
身を清め、いつものローブに着替えたユーインは、オスカーが待つという応接室へ向かった。
部屋に入ると、相手をしていたはずのイゾルデの姿はどこにもなく、不機嫌そうな顔のオスカーがひとりソファに座っていた。
「キルシュ団長は?お前の相手をしていたのではないのか」
言いながら、挨拶すらも省くような義弟との冷めた関係に自嘲の念が湧く。
「……さっき出ていった。用ができたとかで」
部屋の中央に置かれた応接セットの長椅子に、オスカーと向かい合わせに座る。
思いがけず連日のように顔を合わせるようになった義弟。
少しは大人になったのかと思いきや、彼の内面は幼い頃別れた時のままだった。
ユーインがクラウスナー侯爵家を出てから二十三年の時が経つ。
宮廷魔道師団に入り、血の滲むような努力をした。
そして首席魔道師になる頃には、クラウスナー侯爵家での不遇な子供時代の事など思い出す事もなくなった。
元々恨んでなどいなかった……というよりどうでもよかった。
だから、何事もなかったかのように振る舞うことなど簡単だった。
しかし、オスカーは違ったようだ。
研究所の支援を申し出にきたオスカーは、ユーインが責任者だと知るやいなや『お前のような奴が責任者だと!?』とのたまった。
更には『仮にもクラウスナー侯爵家の人間なら、我が家に便宜を図るのが当たり前だろう!』とも。
おそらく父親に認められたい一心なのだろう。
まだあの家は、歪なままなのだ。
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