47 / 59
46
「ユーイン!今までどこに行ってたんだ……ってお前、その恰好……昨日の夜会のままじゃないか」
宿舎に戻るなり、イゾルデから呼び止められた。
その慌てた様子から察するに、ずっと自分を探していたようだ。
「ああ、今から着替える。何かあったのか?」
今日はアカデミーも休日で、来客の予定もなかったはず。
しかし、イゾルデの口から出た言葉は、ユーインの問いかけに対する答えではなかった。
「……まさかお前、今までずっとリーリア殿下と一緒に……?」
イゾルデの声が、僅かに震えている。
「そうだが……どうした?」
「そう……そうか……良かったじゃないか!それにしても水臭いなぁ。殿下とそういう仲だったなら、隠さず言ってくれればいいだろ?お陰で昨夜は腰が抜けるほど驚いたよ。まさかお前が結婚するなんて」
違和感を感じたものの、すぐにいつもの調子に戻ったイゾルデに、ユーインは苦笑いする。
「驚かせてすまないな。だが、想いが通じたのは最近の事なんだ。結婚については……こんな忙しい時に悪いと思っている。だがなるべく迷惑はかけないようにするつもりだ」
「ああ……そうだな。それで、早速なんだけど……オスカーが来てるよ。多分、昨夜の事も含め、話があるんだと思う」
「……そうか。早めに戻る」
「ああ。それまでオスカーは私が相手をしておくよ。でも、この貸しは後で倍にして返せよな」
「わかった。ありがとう、イゾルデ」
ユーインは同僚の気遣いに感謝し、自室へと向かった。
*
身を清め、いつものローブに着替えたユーインは、オスカーが待つという応接室へ向かった。
部屋に入ると、相手をしていたはずのイゾルデの姿はどこにもなく、不機嫌そうな顔のオスカーがひとりソファに座っていた。
「キルシュ団長は?お前の相手をしていたのではないのか」
言いながら、挨拶すらも省くような義弟との冷めた関係に自嘲の念が湧く。
「……さっき出ていった。用ができたとかで」
部屋の中央に置かれた応接セットの長椅子に、オスカーと向かい合わせに座る。
思いがけず連日のように顔を合わせるようになった義弟。
少しは大人になったのかと思いきや、彼の内面は幼い頃別れた時のままだった。
ユーインがクラウスナー侯爵家を出てから二十三年の時が経つ。
宮廷魔道師団に入り、血の滲むような努力をした。
そして首席魔道師になる頃には、クラウスナー侯爵家での不遇な子供時代の事など思い出す事もなくなった。
元々恨んでなどいなかった……というよりどうでもよかった。
だから、何事もなかったかのように振る舞うことなど簡単だった。
しかし、オスカーは違ったようだ。
研究所の支援を申し出にきたオスカーは、ユーインが責任者だと知るやいなや『お前のような奴が責任者だと!?』とのたまった。
更には『仮にもクラウスナー侯爵家の人間なら、我が家に便宜を図るのが当たり前だろう!』とも。
おそらく父親に認められたい一心なのだろう。
まだあの家は、歪なままなのだ。
あなたにおすすめの小説
異世界に逃げたシングルマザー経理は、定時退勤だけは譲れない
木風
恋愛
DV夫から一歳の娘を抱えて逃げた鈴木優子は、光に飲まれて異世界の王宮へ転移してしまう。
生きるために差し出した武器は簿記と経理経験――崩壊寸前の王宮会計を『複式簿記』で立て直すことに。
ただし譲れない条件はひとつ、「午後五時の定時退勤」。娘の迎えが最優先だからだ。
その姿勢に、なぜか若き国王ヴィクトルが毎日経理室へ通い始めて――仕事と子育ての先に、家族の形が芽吹いていく。
死ぬまでに叶えたい十の願い
木風
恋愛
「あなたを妻として、愛することはない。おそらく、生涯抱くこともないだろう」
三年間の白い結婚——捨て置かれた王太子妃エリアーナに、側妃が『死の呪い』をかけ余命一年を宣告する。
離縁を願うも拒否され、代わりに「死ぬまでに十の願いを叶えて」と契約する——
二人きりの外出、星空、海…ささやかな願いが王太子の心をほどいていく。
蔑ろにされた王妃と見限られた国王
奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています
国王陛下には愛する女性がいた。
彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。
私は、そんな陛下と結婚した。
国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。
でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。
そしてもう一つ。
私も陛下も知らないことがあった。
彼女のことを。彼女の正体を。
本当は、二番目に愛してます
唯純 楽
恋愛
元準男爵令嬢のビヴァリーは、落ちぶれた暮らしを強いられながらも、乗馬の腕前を生かして競馬で大金を稼いでいた。ところが、ある日突然、誘拐まがいに連れ去られ、引き籠りの王子妃の乗馬の相手をしてほしいと頼まれる。頼んできたのは五年前にひと夏を共に過ごした初恋の相手ハロルド。身分差から気持ちを打ち明けられずにいたビヴァリーだったが、酔ったハロルドと一夜を共にしてしまう。義務と責任感から結婚しようとするハロルドに、ビヴァリーは望まぬ結婚はすべきではないと、式の途中で逃げ出したのだが、ハロルドは今さら結婚を取りやめることはできないと、ビヴァリーを一晩中淫らに責め立てた……。ほんの小さな誤解から拗れた関係は、壊れる前に修復できるのか?白馬に乗った王子様より、白馬のほうを愛する女の子の波乱万丈な物語。【番外編も投稿しています!】
閨から始まる拗らせ公爵の初恋
ボンボンP
恋愛
私、セシル・ルース・アロウイ伯爵令嬢は19歳で嫁ぐことになった。
何と相手は12歳年上の公爵様で再々婚の相手として⋯
明日は結婚式なんだけど…夢の中で前世の私を見てしまった。
目が覚めても夢の中の前世は私の記憶としてしっかり残っていた。
流行りの転生というものなのか?
でも私は乙女ゲームもライトノベルもほぼ接してこなかったのに!
*マークは性表現があります
■マークは20年程前の過去話です
side storyは本編 ■話の続きです。公爵家の話になります。
誤字が多くて、少し気になる箇所もあり現在少しずつ直しています。2025/7
大人になったオフェーリア。
ぽんぽこ狸
恋愛
婚約者のジラルドのそばには王女であるベアトリーチェがおり、彼女は慈愛に満ちた表情で下腹部を撫でている。
生まれてくる子供の為にも婚約解消をとオフェーリアは言われるが、納得がいかない。
けれどもそれどころではないだろう、こうなってしまった以上は、婚約解消はやむなしだ。
それ以上に重要なことは、ジラルドの実家であるレピード公爵家とオフェーリアの実家はたくさんの共同事業を行っていて、今それがおじゃんになれば、オフェーリアには補えないほどの損失を生むことになる。
その点についてすぐに確認すると、そういう所がジラルドに見離される原因になったのだとベアトリーチェは怒鳴りだしてオフェーリアに掴みかかってきた。
その尋常では無い様子に泣き寝入りすることになったオフェーリアだったが、父と母が設定したお見合いで彼女の騎士をしていたヴァレントと出会い、とある復讐の方法を思いついたのだった。
【完結】裏切られたあなたにもう二度と恋はしない
たろ
恋愛
優しい王子様。あなたに恋をした。
あなたに相応しくあろうと努力をした。
あなたの婚約者に選ばれてわたしは幸せでした。
なのにあなたは美しい聖女様に恋をした。
そして聖女様はわたしを嵌めた。
わたしは地下牢に入れられて殿下の命令で騎士達に犯されて死んでしまう。
大好きだったお父様にも見捨てられ、愛する殿下にも嫌われ酷い仕打ちを受けて身と心もボロボロになり死んでいった。
その時の記憶を忘れてわたしは生まれ変わった。
知らずにわたしはまた王子様に恋をする。
【完結】今さら執着されても困ります
リリー
恋愛
「これから先も、俺が愛するのは彼女だけだ。君と結婚してからも、彼女を手放す気はない」
婚約者・リアムが寝室に連れ込んでいたのは、見知らぬ美しい女だった――
アンドレセン公爵令嬢のユリアナは、「呪われた子」として忌み嫌われながらも、政略結婚によりクロシェード公爵家の嫡男・リアムと婚約し、彼の屋敷に移り住んだ。
いつか家族になれると信じて献身的に尽くすが、リアムの隣にはいつも、彼の幼馴染であり愛人のアリスがいた。
蔑まれ、無視され、愛人の引き立て役として扱われる日々。
ある舞踏会の日、衆前で辱めを受けたユリアナの中で、何かがプツリと切れる。
「わかりました。もう、愛される努力はやめにします」
ユリアナがリアムへの関心を捨て、心を閉ざしたその夜。彼女は庭園で、謎めいた美しい青年・フィンレイと出会う。
彼との出会いが、凍りついていたユリアナの人生を劇的に変えていく。
一方、急に素っ気なくなったユリアナに、リアムは焦りと歪んだ執着を抱き始める。
・全体的に暗い内容です。
・注意喚起を含む章は※を付けています。