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しおりを挟む「なにをおっしゃってるのです?ビビアナのお腹の子は紛れもなくシルヴィオ様の……エルドラ王家の血を引く御子なのです。私ではなくビビアナを正妃に迎え、御子は王家の一員としてしかるべき環境の中でお育ちになるのが当然ではありませんか?」
幸いにしてビビアナの家の爵位であれば、シルヴィオの妃として迎えるのになんら問題はないだろう。
「そんなことできないよ」
「なぜですか?なにか人に言えないような事情でもおありになるのですか」
「いや、そんなわけじゃないんだが……」
どうにも歯切れが悪い。しかしルクレツィアの視線に耐えかねたのか、シルヴィオは諦めたように口を開いた。
「だってビビアナじゃ、恥ずかしいじゃないか」
「恥ずかしい?」
「ああ。だって彼女がここに侍女として預けられたのは十四の時だ。ろくな教育も受けていない。お茶を淹れるのは誰より上手いかもしれないが、私の妃に必要な教養はまるで備わっていない。そんな子に第二王子妃が務まると思うかい?」
「必要な教育ならこれから受けさせればいいだけのこと。シルヴィオ様とお子のためならビビアナだってきっと必死で頑張るでしょう」
ルクレツィアの頭の中は、いつの間にか自分のことよりも、ビビアナとそのお腹の中の子のことでいっぱいだった。
自分が両親からも周りからも大切に育てられてきたから、罪のないビビアナの子もそうでなければならないと思った。
ビビアナと、その子どもの人生をないがしろにしてまで、シルヴィオと幸せになろうなんて思えない。そんな図太い神経をルクレツィアは持ち合わせていない。
しかし次の瞬間、ルクレツィアはシルヴィオから返ってきた答えに絶句した。
「ルクレツィア……本当はこんなこと君に言いたくなかったけど、そうじゃないんだ。恥ずかしいって言うのはその……見た目がね」
──見た目?
「ビビアナじゃ、連れて歩くのに恥ずかしいんだ」
困り顔で微笑むシルヴィオに怖気がした。連れて歩くのに恥ずかしいから妃に迎えられない?子まで生しておいてなにを馬鹿なことを。
──私は、この四年間一体彼のなにに恋
をしていたのだろう
一気に彼への想いが醒めて行く。しかしそんなルクレツィアの気も知らず、シルヴィオは続けた。
「悪いがビビアナの子は認知しない。だがビビアナと共に王宮に住まわせて、その後の暮らしについても保証するから安心して?ああ、そんなに悲しまないでルクレツィア。君は誰よりも美しい。だから僕の一番は君なんだ。安心していいからね」
ルクレツィアは、今までなによりも嬉しかったシルヴィオの言葉が、いかに薄っぺらで薄情なものだったのかを知った。
シルヴィオはルクレツィアが好きなんじゃない。ルクレツィアの美しさが好きなのだ。
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