4 / 56
4
しおりを挟むまったく予想もしていなかった言葉に開いた口が塞がらなかった。
今、彼はなんと言った?ビビアナのお腹の子がシルヴィオの子?
「ああ、驚かせてしまったね。すまないルクレツィア」
「いえ……あの……」
謝るのはそこじゃないだろう。だがそんなこと言えるわけがない。
「話というのは私と君の結婚のことについてなんだ。実は子ができたことをずっと彼女は黙っていて……私も知ったのは最近なんだ。既に周りにも勘付かれてしまっているから、もうどうすることもできなくてね」
ルクレツィアは自身の顔から血の気が引くのがわかった。シルヴィオは自分に隠れて浮気をしていたのだ。その結果子供ができた。そしてそれが隠し立てできないところまで来てしまったから、ルクレツィアとの婚約を解消してビビアナを妃に迎えるつもりなのだ。
「ルクレツィア、顔色が悪い。大丈夫かい?」
シルヴィオが立ち上がり、そばまでやって来ると心配そうにルクレツィアの顔をのぞき込む。
信じられなかった。この優しい人が。今までなによりもルクレツィアを大切にし、愛を囁いてくれた人が。ルクレツィアにするのと同じように……いや、それ以上の愛をビビアナに注いでいたなんて。
浮気をしたからと言ってすぐに子どもができるわけではない。膨らみの大きさから考えて、少なくとも二人は半年以上前には関係を持っていたのだ。もしかしたら初めて関係を持った日からはもう何年も経っているのかもしれない。
ぽたぽたと、瞳からあふれ出た涙がドレスに染みを作る。
「ああ、泣かないでルクレツィア!悲しい思いをさせて本当に済まない」
シルヴィオは両手を広げ、屈むようにしてルクレツィアを抱きしめた。しかしルクレツィアはそれを嬉しいと思うどころかむしろ不快に感じた。それと同時に彼の行動がまったく理解できなかった。なぜならすぐそばでシルヴィオの子をお腹に宿したビビアナが見ているのだ。それにルクレツィアを捨てるつもりなら、これ以上優しくなんてしないで欲しい。
しかしシルヴィオの腕の隙間からビビアナを盗み見ると、彼女は冷えた顔で淡々と給仕に専念していた。湯気にのって蜂蜜の甘い香りがルクレツィアの鼻に届く。これはどういう状況なのだろう。自分たちの周囲に漂う空気が薄気味悪かった。
「安心してルクレツィア。ビビアナと腹の子のことは、私たちの結婚にはなんの支障もない」
シルヴィオは、まるで子供をあやすようにルクレツィアの頭を優しく撫でた。
────なんの支障もない?
「ビビアナは僕たちの結婚後も、侍女として君に仕えると言ってくれたんだ」
86
あなたにおすすめの小説
【完結】私を捨てて駆け落ちしたあなたには、こちらからさようならを言いましょう。
やまぐちこはる
恋愛
パルティア・エンダライン侯爵令嬢はある日珍しく婿入り予定の婚約者から届いた手紙を読んで、彼が駆け落ちしたことを知った。相手は同じく侯爵令嬢で、そちらにも王家の血筋の婿入りする婚約者がいたが、貴族派閥を保つ政略結婚だったためにどうやっても婚約を解消できず、愛の逃避行と洒落こんだらしい。
落ち込むパルティアは、しばらく社交から離れたい療養地としても有名な別荘地へ避暑に向かう。静かな湖畔で傷を癒やしたいと、高級ホテルでひっそり寛いでいると同じ頃から同じように、人目を避けてぼんやり湖を眺める美しい青年に気がついた。
毎日涼しい湖畔で本を読みながら、チラリチラリと彼を盗み見ることが日課となったパルティアだが。
様子がおかしい青年に気づく。
ふらりと湖に近づくと、ポチャっと小さな水音を立てて入水し始めたのだ。
ドレスの裾をたくしあげ、パルティアも湖に駆け込んで彼を引き留めた。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
最終話まで予約投稿済です。
次はどんな話を書こうかなと思ったとき、駆け落ちした知人を思い出し、そんな話を書くことに致しました。
ある日突然、紙1枚で消えるのは本当にびっくりするのでやめてくださいという思いを込めて。
楽しんで頂けましたら、きっと彼らも喜ぶことと思います。
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
初恋が綺麗に終わらない
わらびもち
恋愛
婚約者のエーミールにいつも放置され、蔑ろにされるベロニカ。
そんな彼の態度にウンザリし、婚約を破棄しようと行動をおこす。
今後、一度でもエーミールがベロニカ以外の女を優先することがあれば即座に婚約は破棄。
そういった契約を両家で交わすも、馬鹿なエーミールはよりにもよって夜会でやらかす。
もう呆れるしかないベロニカ。そしてそんな彼女に手を差し伸べた意外な人物。
ベロニカはこの人物に、人生で初の恋に落ちる…………。
裏切りの先にあるもの
マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。
結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。
【完結】他の人が好きな人を好きになる姉に愛する夫を奪われてしまいました。
山葵
恋愛
私の愛する旦那様。私は貴方と結婚して幸せでした。
姉は「協力するよ!」と言いながら友達や私の好きな人に近づき「彼、私の事を好きだって!私も話しているうちに好きになっちゃったかも♡」と言うのです。
そんな姉が離縁され実家に戻ってきました。
【完結】愛したあなたは本当に愛する人と幸せになって下さい
高瀬船
恋愛
伯爵家のティアーリア・クランディアは公爵家嫡男、クライヴ・ディー・アウサンドラと婚約秒読みの段階であった。
だが、ティアーリアはある日クライヴと彼の従者二人が話している所に出くわし、聞いてしまう。
クライヴが本当に婚約したかったのはティアーリアの妹のラティリナであったと。
ショックを受けるティアーリアだったが、愛する彼の為自分は身を引く事を決意した。
【誤字脱字のご報告ありがとうございます!小っ恥ずかしい誤字のご報告ありがとうございます!個別にご返信出来ておらず申し訳ございません( •́ •̀ )】
【完結】今日も旦那は愛人に尽くしている~なら私もいいわよね?~
コトミ
恋愛
結婚した夫には愛人がいた。辺境伯の令嬢であったビオラには男兄弟がおらず、子爵家のカールを婿として屋敷に向かい入れた。半年の間は良かったが、それから事態は急速に悪化していく。伯爵であり、領地も統治している夫に平民の愛人がいて、屋敷の隣にその愛人のための別棟まで作って愛人に尽くす。こんなことを我慢できる夫人は私以外に何人いるのかしら。そんな考えを巡らせながら、ビオラは毎日夫の代わりに領地の仕事をこなしていた。毎晩夫のカールは愛人の元へ通っている。その間ビオラは休む暇なく仕事をこなした。ビオラがカールに反論してもカールは「君も愛人を作ればいいじゃないか」の一点張り。我慢の限界になったビオラはずっと大切にしてきた屋敷を飛び出した。
そしてその飛び出した先で出会った人とは?
(できる限り毎日投稿を頑張ります。誤字脱字、世界観、ストーリー構成、などなどはゆるゆるです)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる