やり直しは別の人と

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 ルクレツィアはシルヴィオから贈られたドレスや宝石を前に懊悩していた。
 受け取りたくはなかったが、受け取らなければ不敬だし、受け取ったならそれを身につけて夜会に出席しなければならない。

 「……結局逃げられないのね」

 当たり前だ。四年も婚約者として彼の隣にいたのに、今さら“やっぱり嫌いになったから別れます”なんてことが許されるわけない。なによりシルヴィオがルクレツィアとの結婚を望んでいるのだから。
 浅はかだった自分を悔いるルクレツィアに、ガルヴァーニ侯爵はまるで励ましにならないことを口にした。

 「大丈夫だルクレツィア。お父様には理性はないが金がある。お前を守るためなら一族郎党領地へ引っ込んで、ワカメ頭が諦めるまで籠城するという手もある!」

 「お父様……我が一族には国の要職につく者たちもいるのです。国政に影響が出るようなことをしてはいけません」

 ガルヴァ―二一族は優秀な文官を数多く輩出している。冷静になって初めて気づいたが、おそらくそれもシルヴィオがルクレツィアを妃に欲しいと願う要因なのだ。

 ──これまでずっと、シルヴィオ様も純粋に恋をしてくれているんだと思っていた私は、本当に馬鹿だったわ

 いずれ臣籍降下する身のシルヴィオにとって妻の生家の財力と政治的立ち位置はとても重要だ。その点ガルヴァ―二侯爵家はこの国でも一、二を争う資産家。そして優秀な人材は王宮のあちこちで要職を担っている。ルクレツィアと結婚すれば、国政への太いパイプも簡単に手に入る。
 王位継承権を持ったまま臣下に下るシルヴィオにとって、も見据え、この結婚は色々と得をすることばかりなのだ。

 「もしかしたら……アンジェロ殿下もシルヴィオ様のように私じゃなく、私との結婚に付随するものが欲しいのかしら……」

 「それはないわね」

 ルクレツィアが口にした疑問を母はバッサリと切り捨てた。なにやらやけに自信があるようだ。

 「あの童貞小僧があなたに恋をしたのはまだ十二歳の時よ。今は確かにあなたとの婚姻に付随するものも視野に入っているかもしれないけれど、あなたを好きになった気持ちはシルヴィオ殿下よりずっと純粋だわ。だからって簡単にはあげられないけど」

 「ど、童貞小僧ってお母様……!でも十二歳って、アンジェロ殿下がその年の頃は、血走った目で睨まれてばかりいたのよ?それなのに殿下が私に恋を?そんなの有り得ないわ」

 「目が血走っていたのは、あなたを見るために瞬きをしなかったからよ。きっと一瞬でも目を閉じるのがもったいなかったのね。目が乾いて大変だったでしょうに。異常行動って点ではアンジェロ殿下の愛はあなたのお父様の愛と通づるものがあるわ」

 「噓でしょ……」

 まさかあれが恋する男の子の瞳だなんて。

 「変な勘違いをされたら困るけど、味方にすれば心強いかもしれないわよ。アンジェロ殿下はもちろん、カリスト王太子殿下もね」

 「カリスト王太子殿下は……苦手だわ」

 シルヴィオの四歳年上の兄カリスト。国王一家の団欒の場に招かれて、何度か会ったことがある。しかし皆で談笑していても不機嫌そうな顔でお茶を飲み、まったく喋らない。なにを考えているのかよくわからない彼のことが、心の内が非常にわかりやすい家族の元で過ごしてきたルクレツィアにはとても苦手だった。

 「あなたがそう思い込んでるだけで、案外話のわかる方かもしれないわよ?今度の夜会であなたからご挨拶をしてみたら?」

 「でもカリスト殿下は夜会にはほとんど出席なさらないわ。きっと今回もそうよ……」

 
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