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しおりを挟むガルヴァーニ侯爵邸よりだいぶ質素な造りの廊下を執事に案内されながら歩く。
ルクレツィアを外に出したがらなかった父のせいで、あまり他家を訪問したことがないルクレツィア。しかし思いがけずこのような機会を得たことで、父の領地経営の手腕を改めて実感した。
案内された応接室では既にアラベッラが待っていた。それともうひとり。部屋の中央に置かれた応接室用のテーブルセットに、こちらへ背を向けて座るストロベリーブロンドの女性の姿があった。
──まさか、カーラ様?
社交界でストロベリーブロンドの令嬢といえば、ランベルディ公爵家の長女でアラベッラの未来の姉、カーラ・ランベルディしかいない。
アラベッラは気まずそうな顔をして立ち上がり、ルクレツィアを迎えた。
「ようこそいらっしゃいましたルクレツィア様。……その、今日は私の義姉になるカーラ様もぜひ同席させていただきたいとのことで、こちらにお招きしております」
だがしかし、アラベッラから紹介されたのにカーラは立ち上がりもせず、こちらへ顔を向けることすらしない。横柄なんてものじゃない。無視だ。
確かに公爵家のカーラの方が、爵位上ルクレツィアより立場は上だ。しかしルクレツィアはまだシルヴィオの婚約者でもある。そのルクレツィアに対してこんな態度をとるなんて。
だが今日はアラベッラに会いにきたのだ。このままお互いに黙っていても始まらない。ルクレツィアはカーラのそばまで近づき挨拶をした。
「ご無沙汰しておりますカーラ様」
膝を折って礼をしたルクレツィアを無視したまま、カーラは目の前に置かれているカップを手に取った。
まだ湯気の立つそれにゆっくりと口をつけ、優雅な仕草で嚥下する。それからようやくこちらを向き、口の端を愉快そうに吊り上げた。
「あら、泥棒猫さんじゃないの。いったいどんなお顔を下げていらっしゃったのかと思ったら……相変わらず能天気で夢見がちなお顔ね」
“泥棒猫”とはアラベッラのドレスのことを指しているのだろうが、こちらからすればアラベッラからドレスを取り上げたのはシルヴィオとカーラだ。
ルクレツィアはアラベッラの顔を見る。するとやはりアラベッラはおどおどと困り果てたような顔をしている。
ルクレツィアはここに来る前、アラベッラとカーラの弟がどうして婚約に至ったのかが気になり、調べてみた。
てっきり家同士の結びつきを強めるためなのかと思っていたら、それはどうやら少し違うようだった。
確かに政略的意図もある。その一番の理由は、ルクレツィアの生家ガルヴァーニ侯爵家が台頭する王宮内で、自分たちの立場を誇示するためだと推察される。だがこの婚約は、そういった堅苦しい理由だけではないような気がしていた。ルクレツィアにだって少しはわかる。それは、アラベッラの最近の表情が、これまでとぜんぜん違ったからだ。
情報通の母に聞いてみたところ、二人はどうやら想い合った末の婚約らしい。
これはルクレツィア自身がずっと気になっていたことなのだが、なぜあんな素晴らしく豪華なドレスをアラベッラが注文したのかだ。
アラベッラはよく言えば控えめで目立つことを嫌い、悪く言えば地味な女性だった。けれどそれはどうやら本人の趣味らしく、アラベッラはそういう自身のことを気に入っている風だった。
アストーリ侯爵家は確かにガルヴァーニ侯爵家に財力では劣るが、だからといって娘の嫁入り支度をケチるほど困窮しているわけじゃない。公爵家に嫁ぐとあれば、あれくらい豪華なドレスだって仕立てるだろう。でも果たしてあのデザインを彼女が選ぶだろうか。
そう。どちらかといえば……ああいったデザインを好むのはカーラの方だ。
そしてこのアラベッラの態度といい、ルクレツィアが頭の中で考えていたことは、今日すべて繋がった気がした。
──ええい、女は度胸よ!なにかあったらごめんなさいお父様!!
ルクレツィアは姿勢を戻し、お気に入りの扇を大袈裟に音を立てて開いた。ついでに口の端も吊り上げて、カーラの顔真似もしてやった。
「あら、泥棒猫だなんて心外ですわカーラ様。だってあなたが頼んだドレスをあなたの手で私に贈ってくださったのでしょう?一年も前から私に贈るために注文してくださっていたのですよね?私を驚かせようと思ってくださったのでしょう?だからご自分だとバレないようにアラベッラ様のお名前で頼まれたのよね?」
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