やり直しは別の人と

クマ三郎@書籍&コミカライズ3作配信中

文字の大きさ
50 / 56

50

しおりを挟む





 「はーん、やっぱり逃げたか。やっぱりやめときなさい。ここで出張ってこない男なんて、ろくなもんじゃないから」

 やたらと肌艶のいいカーラが弟のオペラグラスを奪い、謎の鉄仮面男を観察しながら言い放った。
 ルクレツィアのためだけに設けられた、名目上は招待された貴族のための観覧席。そこには四人の若い男女が座っていた
 
 「お、お姉さま!あの恐ろしい鉄仮面は誰なのですか!?」

 やたらと姿勢よく座る鉄仮面男を指差すのはアラベッラ。彼女は鉄仮面男から漂う空気が恐ろしすぎて婚約者のジョルジュの袖を握り締めながら怯えている。

 「カリスト殿下じゃないことだけは確かね。防具は禁止されてないから、大方勝手に替え玉が乗り込んできたんでしょう。ちょっとルクレツィア、なんて顔してんの。しっかりしなさいよ」

 昨晩。ジョルジュを除いた女子三人は、とある事情から、王宮内にある賓客用の客室に泊まった。

 「……もういいんです。皆さんを巻き込んでしまって本当にすみませんでした……」

 ルクレツィアは消沈した様子で小さく頭を下げる。

 「なんで謝ってらっしゃるのルクレツィア様!?悪いのは女々しいアンジェロ殿下ですわ!もう、昨夜のことで私アンジェロ殿下推しは撤回です!」


 *


 『アンジェロ殿下、私は……私は、別の人とやり直すなら、相手はカリスト殿下がいいです』

 『なっ……なんで!?ルクレツィア!まだ答えは出さなくていいんだ!明日の僕を見てから決めてくれ!!』

 『……いいえ……お二人のうちどちらかを選ぶのなら、私は……』

 『待って!待ってよ!!どうしてカリスト兄上なのさ!?』

 『カリスト殿下はそのままの私でいいと言ってくださいました。私らしく咲けばいいと。でもアンジェロ殿下は努力が必要だって……努力はもう……たくさんしました……』

 この四年、なにもしてこなかったわけじゃない。外の世界に出て恋を知り、その相手が第二王子だったこともあり、たくさんのことを学ばなければならなかった。加えて麗しい彼を誰にも取られたくなくて、美しさにも磨きをかけようと努力した。けれどルクレツィアの努力など無意味だった。どんなに頑張ったところで結局人は自分以上のものにはなれないし、自分のためにこれだけ努力をした女を男はあっさりと裏切るのだ。
 これからも恋するたびに、愛するたびにひたすら努力をしなければならないのだろうか。あの日々をもう一度繰り返すなんて、今のルクレツィアにはとても考えられなかった。
 けれど、カリストは違った。
 カリストのそばは居心地がいい。彼の生活の中には、ルクレツィアの好きなものがごく自然に溶け込んでいた。
 彼が好きなのはルクレツィアで、ルクレツィアの好きなものが彼も好きで、そんな彼の空間にいる時間はとても穏やかで……そこには無理も我慢も努力もなにもない、ただ彼のルクレツィアに対する愛だけが溢れていた。

 『シルヴィオ様と歩みたかった道を、与え合いたかった愛を、私はカリスト殿下とやり直してみたい。そう思えるだけの愛をカリスト殿下の中に確かに感じたから』

 『駄目だ!!』

 『殿下!!』

 そこに乗り込んできたのはアンジェロの近習ダンテだった。二人のやりとりをどこから聞いていたのか。ダンテは入室するなり駆け寄ってきて、太い腕の筋肉フル稼働でアンジェロをルクレツィアから引っ剥がしにかかった。

 『離せ!!離せダンテ!!僕はまだルクレツィアに話しがあるんだ!!』

 『男は引き際が肝心なのです!!愛する女性の幸せを黙って祝福してやれないようでは男にあらず!!』

 そしてアンジェロとダンテの激しい攻防は、いいものを見てさあ帰ろうとホクホクしながら回廊を歩いていたアラベッラとジョルジュにバッチリと聞こえてしまった。
 仲裁に駆けつけた二人が目にしたのは、腕ひしぎ十字固めをかけられて悶絶するアンジェロと、その横で泣きながら二人を見守るルクレツィア。
 アンジェロが大人しくなるまでかなりの時間を要してしまい、ルクレツィアとアラベッラは客室に泊まることとなってしまった。

 『なんか面白いことになってるじゃない。ルクレツィアがアンジェロ殿下の宮にいるって大騒ぎになってたわよ』

 そんな二人の客室に、湯浴みも済んでお肌ツヤペカのカーラがやってきたのだ。現在シルヴィオは放心し、口も聞けない状態らしい。
 カーラはあのあと起こったことの詳細を二人から聞くなり口を開いた。

 『……なにあんた、結局カリスト殿下にするの!?』

 『はい……なので明日の朝一番にカリスト殿下のところへ行こうかと……』

 ルクレツィアは、もし御前試合をやめてもらえるならそのほうがいいと思っていた。兄弟同士争う理由がなくなったからだ。
 
 『でもいっそこてんぱんにやられた方が、アンジェロ殿下も諦めがつくってもんじゃないの?いいから黙ってやらせてやんなさいよ』 

 『でも……』

 アンジェロは自身の腕にかなりの自信を持っているようだった。万が一カリストに勝つようなことがあれば、諦められなくなってしまうのではないだろうか。
 しかしカーラはこれに不敵な笑みを浮かべた。

 『カリスト殿下は力ずくでもあんたを奪いにくるって言ったんでしょう?なら殿下の覚悟、しっかり見せてもらおうじゃないの!よーし!!明日に備えて寝るわよ』

 『お姉さまもここで寝るの!?』

 『あったりまえじゃない。シルヴィオ殿下のベッドは今びしょびしょのカピカピで、寝れたもんじゃないわよ』

 『びしょびしょのカピカピ……』

 なぜか復唱したアラベッラは、顔を真っ赤にして黙ってしまった。
 そして三人は、両側からえいえいとベッドを押してくっつけたあと、仲良く朝まで眠ったのだった。
 
 
 
 
 




しおりを挟む
感想 305

あなたにおすすめの小説

理想の『女の子』を演じ尽くしましたが、不倫した子は育てられないのでさようなら

赤羽夕夜
恋愛
親友と不倫した挙句に、黙って不倫相手の子供を生ませて育てさせようとした夫、サイレーンにほとほとあきれ果てたリリエル。 問い詰めるも、開き直り復縁を迫り、同情を誘おうとした夫には千年の恋も冷めてしまった。ショックを通りこして吹っ切れたリリエルはサイレーンと親友のユエルを追い出した。 もう男には懲り懲りだと夫に黙っていたホテル事業に没頭し、好きな物を我慢しない生活を送ろうと決めた。しかし、その矢先に距離を取っていた学生時代の友人たちが急にアピールし始めて……?

完結 貴方が忘れたと言うのなら私も全て忘却しましょう

音爽(ネソウ)
恋愛
商談に出立した恋人で婚約者、だが出向いた地で事故が発生。 幸い大怪我は負わなかったが頭を強打したせいで記憶を失ったという。 事故前はあれほど愛しいと言っていた容姿までバカにしてくる恋人に深く傷つく。 しかし、それはすべて大嘘だった。商談の失敗を隠蔽し、愛人を侍らせる為に偽りを語ったのだ。 己の事も婚約者の事も忘れ去った振りをして彼は甲斐甲斐しく世話をする愛人に愛を囁く。 修復不可能と判断した恋人は別れを決断した。

【完結】私を裏切った前世の婚約者と再会しました。

Rohdea
恋愛
ファルージャ王国の男爵令嬢のレティシーナは、物心ついた時から自分の前世……200年前の記憶を持っていた。 そんなレティシーナは非公認だった婚約者の伯爵令息・アルマンドとの初めての顔合わせで、衝撃を受ける。 かつての自分は同じ大陸のこことは別の国…… レヴィアタン王国の王女シャロンとして生きていた。 そして今、初めて顔を合わせたアルマンドは、 シャロンの婚約者でもあった隣国ランドゥーニ王国の王太子エミリオを彷彿とさせたから。 しかし、思い出すのはシャロンとエミリオは結ばれる事が無かったという事実。 何故なら──シャロンはエミリオに捨てられた。 そんなかつての自分を裏切った婚約者の生まれ変わりと今世で再会したレティシーナ。 当然、アルマンドとなんてうまくやっていけるはずが無い! そう思うも、アルマンドとの婚約は正式に結ばれてしまう。 アルマンドに対して冷たく当たるも、当のアルマンドは前世の記憶があるのか無いのか分からないが、レティシーナの事をとにかく溺愛してきて……? 前世の記憶に囚われた2人が今世で手にする幸せとはーー?

幼馴染を溺愛する旦那様の前からは、もう消えてあげることにします

睡蓮
恋愛
「旦那様、もう幼馴染だけを愛されればいいじゃありませんか。私はいらない存在らしいので、静かにいなくなってあげます」

私と幼馴染と十年間の婚約者

川村 あかり
恋愛
公爵令嬢ロゼリアは、王子アルベルトとの婚約を結んでいるが、彼の心は無自覚に幼馴染のミナに奪われていた。ミナの魔法【魅了】が無意識に周りの男性を狂わせ、アルベルトもその例外ではない。 それぞれが生まれつき得意な魔法があり、ロゼリアは見たものや聞いたものを完璧に記録できる【記録・再生】の魔法を持ち、二人の関係に耐えきれず胃の痛みに悩む日々。そんな中、彼女の唯一の理解者の冷静沈着なキースや毒舌のマリーが心の支えとなる。 アルベルトの側近であるガストンは、魔法【増幅】で騒動を盛り上げる一方、ミナの友人リリィは【幻影】の魔法を使ってロゼリアを貶めようと画策する。 婚約者と幼馴染の行動に振り回されるロゼリア。魔法が絡んだ恋愛模様の中で、彼女は本当の愛を見つけられるのか?

あなたの妻にはなりません

風見ゆうみ
恋愛
幼い頃から大好きだった婚約者のレイズ。 彼が伯爵位を継いだと同時に、わたしと彼は結婚した。 幸せな日々が始まるのだと思っていたのに、夫は仕事で戦場近くの街に行くことになった。 彼が旅立った数日後、わたしの元に届いたのは夫の訃報だった。 悲しみに暮れているわたしに近づいてきたのは、夫の親友のディール様。 彼は夫から自分の身に何かあった時にはわたしのことを頼むと言われていたのだと言う。 あっという間に日にちが過ぎ、ディール様から求婚される。 悩みに悩んだ末に、ディール様と婚約したわたしに、友人と街に出た時にすれ違った男が言った。 「あの男と結婚するのはやめなさい。彼は君の夫の殺害を依頼した男だ」

【完結】捨てたものに用なんかないでしょう?

風見ゆうみ
恋愛
血の繋がらない姉の代わりに嫁がされたリミアリアは、伯爵の爵位を持つ夫とは一度しか顔を合わせたことがない。 戦地に赴いている彼に代わって仕事をし、使用人や領民から信頼を得た頃、夫のエマオが愛人を連れて帰ってきた。 愛人はリミアリアの姉のフラワ。 フラワは昔から妹のリミアリアに嫌がらせをして楽しんでいた。 「俺にはフラワがいる。お前などいらん」 フラワに騙されたエマオは、リミアリアの話など一切聞かず、彼女を捨てフラワとの生活を始める。 捨てられる形となったリミアリアだが、こうなることは予想しており――。 ※他サイト様にも載せています。

夫と愛し合った翌朝、一方的に離縁されました【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
美しい公爵夫人マルグリートは、冷徹な夫ディートリヒと共に、王国の裏で密かに任務をこなす“悪女”。 だがある日、突然夫から離婚を言い渡される。しかもその裏には、平民の愛人の存在が──。 失意の中、王命で新たな婚約者・エルンストと結ばれることに。 どうやら今回の離婚再婚は、王家の陰謀があるよう。 「悪女に、遠慮はいらない」 そう決意した彼女は、華やかな舞踏会で王に真っ向から言い放つ。 「わたくし、人の家庭を壊しておきながら悪びれない方に、下げる頭は持っていませんの。  王族であられる前に、人におなりくださいませ。……失礼」 愛も、誇りも奪われたなら── 今度はこの手で、すべてを取り戻すだけ。 裏切りに燃える、痛快リベンジ・ロマンス! ⚠️本作は AI の生成した文章を一部に使っています。タイトル変えました。コメディーです。主人公は悪女です。

処理中です...