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しおりを挟む模擬戦が終わり、素晴らしい剣技を見せた騎士団員たちに、国王エドアルドから労いの言葉がかけられた。
「次はいよいよ殿下方の出番ですわね!でもシルヴィオ殿下がいらっしゃらないということは、試合はアンジェロ殿下とカリスト殿下の席に座ってらっしゃるあの鉄仮面の方で行うということですわよね?」
「まあ、そうなるわよね。いったいあのカリスト殿下もどきはなにしに出てきたんだか……まあ、とにかく見守りましょ。はしたないからあんまり身を乗り出すんじゃないわよアラベッラ」
「は、はい!お姉さま」
微笑ましい二人を横目に、ルクレツィアは痛む胸をそっと押さえた。
──カリスト殿下は来なかった
昨夜の騒動を聞いて誤解したのかもしれない。けれどそんなことは周りに確認すればすぐわかることだ。
真っ直ぐに気持ちをぶつけてきたカリストが、ルクレツィア相手に駆け引きをするとは思えない。姿を現さないということは、彼にとってルクレツィアはその程度の存在であったということなのだろう。
「シルヴィオ殿下棄権により、試合は王太子カリスト殿下と第三王子アンジェロ殿下のお二方で行われます!」
場内は一際大きな歓声に湧いた。
カリストもどきとアンジェロは、それぞれおもむろに席を立ち、先程まで模擬戦が行われていた場所に向かって歩き出す。
目の下にどす黒い隈をつくったアンジェロの鬼気迫る表情に、会場内の視線が集中した。
「すごい顔色ね。一睡もしなかったのかしら」
カーラは眉を寄せて呟いた。その言葉に、昨夜彼を傷つけてしまった負い目から、ルクレツィアの胸がズキンと痛む。
恐る恐るアンジェロに目をやると、彼のまるで射抜くように真っ直ぐな視線とかち合った。
“僕は諦めていない”
その目はそう言っているようだった。
*
アンジェロと鉄仮面の男が向かい合う。
カリストと背格好は似ているが違う。これが本当に兄ならば鉄仮面を被る必要もない。
──剣を交えてみればわかるだろう
先に仕掛けたのはアンジェロだった。
審判が開始を告げた途端、アンジェロは勢いよく前へ踏み出し、その華奢な身体からは考えられないような重い一撃を鉄仮面の男めがけて振り下ろした。
しかし男はそれを難なく受け止めたあと横に流し、剣を戻しざまに斬り返してきた。
凄まじい勢いで振り上げられた刃にアンジェロは慌てて飛び退った。
(くそっ、反応が速いな……!)
アンジェロの足は速い。その彼の、不意打ちに近い先制攻撃に即座に反応し、その上斬り返してくるなんて。
「お前……オリンドだな?」
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