年下夫の嘘

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 目を覚ますと薄暗い部屋の中にいた。
 見慣れぬ天蓋から垂れ下がる、薄紫のレースのカーテンが視界を覆っていた。
 そして周囲には嗅いだことのない、とろみのある甘く濃厚な香りが漂っている。
 (ここは……どこ……?)
 確か自分はアデリーナの誘いを受け、庭園でお茶を飲んでいたはず。
 (そうだ……お茶を飲んだあと、急に眩暈がして……)
 アデリーナが自分に薬を盛ったのだろうか。そしてここまで攫った?
 いやまさか。そんなことは有り得ない。ツェツィーリエは今や公爵家の一員で、次期ベルクヴァイン当主の妻だ。どんな理由があろうとも、たとえそれが王女だとしても、そんな暴挙は許されない。
 (とにかく起きなきゃ)
 だが、起き上がりたくても身体は鉛のように重く、僅かに首を動かすことしかできない。せめて今のこの状況を把握できるものはないだろうか。
 そうこうしているうちに目が慣れてきて、徐々に部屋の様子がわかってきた。
 高級感のある内装から、名のある貴族の屋敷かとも思ったが、多分違うだろう。壁紙や、ツェツィーリエが今横たわるこの寝台といい、すべてが一級品であるのは確かだが、派手でどこか現実味がなく、人の目をなによりも気にする貴族の邸宅向きではないのだ。いい意味で神秘的とでもいおうか。確かこういう内装はとある場所で好まれるものだと、亡き一番目の夫の友人から聞いたことがある。

 「あら、目が覚めた?よかったわ。万が一のことを考えて薬の量を少し多めにしてしまったから、もうしばらくは起きないんじゃないかと心配していたのよ」

 「────っ!!」

 反射的に身体が強張る。深紅に塗られた爪が視界の端に映り、そちらの方へ顔を向けた途端、ツェツィーリエは絶句した。
 カーテンをどけてこちらを覗き込んでいたのはアデリーナ。だがしかしいつもの彼女とはまるで違う。
 大きく開かれた胸元。清流のように艶やかに流れる亜麻色の髪はくるくると巻かれ、ぽってりとした果実のような唇には爪と同じ深紅の紅が乗せられている。

 「あ……アデリーナ殿下……?」

 「ええ、そうよ」

 アデリーナはいつものように穏やかな微笑みを浮かべ、くすくすと機嫌よさげに笑っている。

 「ここはどこなのですか?夫は……夫はこのことを知っているのですか?」

 「ここはサロン・ブルーメ。王都のアルム川沿いに建つ高級娼館よ。残念ながらあなたがここにいることをユリアンは知らないわ」

 娼館と聞いて、ツェツィーリエはぴんときた。そうだ、娼婦だ。今のアデリーナの装いや雰囲気を表現するには、娼婦という言葉が一番適当だった。

 「第一王女アデリーナ殿下ともあろうお方が、一体なぜそのような格好をなさっているのです?」

 アデリーナはツェツィーリエの問いに意表を突かれたような顔をしたあと、おかしそうに笑いだした。




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