この幸せがあなたに届きますように 〜『空の子』様は年齢不詳〜

ちくわぶ(まるどらむぎ)

文字の大きさ
47 / 197
998年目

17 覚醒 ※空

しおりを挟む



 ※※※ 空 ※※※



「何か見えているのですか?」
「何も見えていないの?」

2人の声が揃った。

シンは戸惑い、もう一度テオを見た。

が、自分に見えるのは、ぐったりと横たわっていて、いつもより確かに肌の色が悪いが普段のテオだ。
チヒロの言った黒いシミなど、どこにも見えはしない。

一方、チヒロは再びシンの腕から出ようともがいていた。

シンはようやく彼女を抱えたままだったことに気付いたようで、腕を緩める。

シンの腕から解放されてベッドに近づいたチヒロも、目を凝らしてテオを見る。

チヒロの目にはテオの身体を仄暗く染めるシミが見えている。
服を着ているので全身は見えないはずだ。布団もある。

だがシミは身体全体に及んでいることが、彼女にはわかる。
特に左腕だけ。
シミは他より濃く、中でも人差し指は先に行くほど真っ黒だった。

「チヒロ様……貴女の目にはテオはどう見えているのですか?」

シンが聞くのと同時に部屋の外にいたセバスは慌ててドアを閉めた。
他の者に聞かせられない話だとすぐに判断したのだろう。

部屋の中には意識なく横たわっているテオと、そしてシンとチヒロだけになる。

チヒロは自分の目がおかしいのかと疑ったらしい。

自分の目をこすってみたり、手で片方ずつ隠して見たり、室内を見回したりしていたが…………やがて再びテオを見つめ答えた。

「……テオの身体全体が炭を溶かして染めたように黒く見える。
中でも特に左腕。
指先に近いほど黒い。人差し指の先が一番濃くてもう真っ黒」

「服や布団があるのにわかるのですか?」

「うん……」

「では私はどう見えますか?」

チヒロは横にいるシンを見る。

「――いつもの通り。普通のシンだよ」

その顔は泣きそうに歪んでいた。

「なに?これ、、どうして――」

「――落ち着いてください。大丈夫です」

「でもっ」

「大丈夫。それが貴女の普通なのでしょう」

「――私の…………普通?」

「ええ。馬や牛の見える色は人間のそれとは違うらしい。それと同じですよ」

「……私は馬や牛なの」

「ただの例えです。そこは流してください」

チヒロは恨めしそうにシンを見た。
シンは気にもせず続ける。

「初めに貴女が言われた通り、貴女に見えているのは多分《死病》でしょう。
しかし私には見えない。私たちは見え方が違う。ただ、それだけのことです」

「それだけ…………」

「ええ。瞳の色が違うのです。見え方が違っても不思議ではありません。
とは言え突然わかったのですから驚かれて当然です。――ですが今は」

「――テオ!」

チヒロはシンとベッドの側に行き横たわるテオを祈るように見つめる。

しばらくして部屋の外が騒がしくなり、レオンの依頼で遣わされた王宮医師二人とエリサがきた。

エリサは王宮医師に制止されドアの前で留まり、部屋には王宮医師だけが入る。

様子が見たかったのだろう。

部屋のドアはもう閉められることはなく、ドアの外にはエリサ以外にもセバス。
そして屋敷で働く侍女や侍従、下男。庭師、厨房にいるはずの調理人までもいて、部屋の中を見つめていた。

皆が見つめる中、年配の王宮医師はテオの診察を始めた。
その後ろで、見習い医師の若者が師の手元を見ている。

医師に場所を譲ったシンとチヒロは、ベッドの足元の方に移動してテオを見守っていた。

「死病で間違いありません」

王宮医師は無常にも告げた。

事実上の死の宣告に誰の口からも声はない。

王宮医師は見習い医師に目配せをし、頷いた見習い医師は持っていた鞄から一本の瓶を出し、チヒロに渡すと言った。

「それは『空の子』様。貴女の分の特効薬です」

チヒロの顔色が変わった。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話

yuzuku
ファンタジー
ベランダから落ちて死んだ私は知らない森にいた。 知らない生物、知らない植物、知らない言語。 何もかもを失った私が唯一見つけた希望の光、それはドラゴンだった。 臆病で自信もないどこにでもいるような平凡な私は、そのドラゴンとの出会いで次第に変わっていく。 いや、変わらなければならない。 ほんの少しの勇気を持った女性と青いドラゴンが冒険する異世界ファンタジー。 彼女は後にこう呼ばれることになる。 「ドラゴンの魔女」と。 ※この物語はフィクションです。 実在の人物・団体とは一切関係ありません。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

竜帝に捨てられ病気で死んで転生したのに、生まれ変わっても竜帝に気に入られそうです

みゅー
恋愛
シーディは前世の記憶を持っていた。前世では奉公に出された家で竜帝に気に入られ寵姫となるが、竜帝は豪族と婚約すると噂され同時にシーディの部屋へ通うことが減っていった。そんな時に病気になり、シーディは後宮を出ると一人寂しく息を引き取った。 時は流れ、シーディはある村外れの貧しいながらも優しい両親の元に生まれ変わっていた。そんなある日村に竜帝が訪れ、竜帝に見つかるがシーディの生まれ変わりだと気づかれずにすむ。 数日後、運命の乙女を探すためにの同じ年、同じ日に生まれた数人の乙女たちが後宮に召集され、シーディも後宮に呼ばれてしまう。 自分が運命の乙女ではないとわかっているシーディは、とにかく何事もなく村へ帰ることだけを目標に過ごすが……。 はたして本当にシーディは運命の乙女ではないのか、今度の人生で幸せをつかむことができるのか。 短編:竜帝の花嫁 誰にも愛されずに死んだと思ってたのに、生まれ変わったら溺愛されてました を長編にしたものです。

親友面した女の巻き添えで死に、転生先は親友?が希望した乙女ゲーム世界!?転生してまでヒロイン(お前)の親友なんかやってられるかっ!!

音無砂月
ファンタジー
親友面してくる金持ちの令嬢マヤに巻き込まれて死んだミキ 生まれ変わった世界はマヤがはまっていた乙女ゲーム『王女アイルはヤンデレ男に溺愛される』の世界 ミキはそこで親友である王女の親友ポジション、レイファ・ミラノ公爵令嬢に転生 一緒に死んだマヤは王女アイルに転生 「また一緒だねミキちゃん♡」 ふざけるなーと絶叫したいミキだけど立ちはだかる身分の差 アイルに転生したマヤに振り回せながら自分の幸せを掴む為にレイファ。極力、乙女ゲームに関わりたくないが、なぜか攻略対象者たちはヒロインであるアイルではなくレイファに好意を寄せてくる。

どんなあなたでも愛してる。

piyo
恋愛
遠征から戻った夫の姿が変わっていたーー 騎士である夫ディーノが、半年以上の遠征を終えて帰宅した。心躍らせて迎えたシエラだったが、そのあまりの外見の変わりように失神してしまう。 どうやら魔女の呪いでこうなったらしく、努力しなければ元には戻らないらしい。果たして、シエラはそんな夫を再び愛することができるのか? ※全四話+後日談一話。 ※毎日夜9時頃更新(予約投稿済)&日曜日完結です。 ※なろうにも投稿しています。

白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

処理中です...