この幸せがあなたに届きますように 〜『空の子』様は年齢不詳〜

ちくわぶ(まるどらむぎ)

文字の大きさ
48 / 197
998年目

18 波乱 ※空

しおりを挟む



 ※※※ 空 ※※※



「それは『空の子』様。貴女の分の特効薬です」

チヒロの顔色が変わった。

「私の分?」

「はい。死病の患者と同じ部屋へ入られましたね。
この国のきまりにのっとり貴女様に特効薬をお渡しさせていただきます。
稀ですが、この病はうつる事があるのです。
どうかシン様とそちらの椅子にかけ、ご自分のお身体の様子をみていてくだい。
そして。
もし万一、お身体のどこかに傷ができたり、熱を感じたらすぐに私たち医師を呼んでください。
だがすぐに意識を失う可能性も高い。
ご自分で、安全に特効薬を飲めるかどうかは時間との勝負です。
そのため先にお渡ししておきます」

「――っちょっと待ってよ!私は罹ってない!だから私の特効薬をテオに――」

「――できません」

チヒロの身体がビクッと震えた。
見習い医師は厳しく告げる。

「第3王子殿下からすでにお聞きになっているはずです。
死病の特効薬は貴族以上、または国の要職者のみ飲む権利があるものです。
――それも生涯1人1本。
いくら大金を積もうと買うのは無理。
王宮の医局で厳重に管理されています。
万にひとつ。
平民が盗んで飲み、死病を治したところで捕縛され……極刑です」

チヒロは口を開けたが声は出なかった。

見習い医師は続ける。

「見届け役の資格を持った医師の目の前で飲むことが義務付けられています。
誤魔化しは効きません」

「国の決まりです。ご理解を」と、見習い医師は頭を下げた。

「非情だとお思いでしょう。
しかしどうしようもない現実なのです。
『空の子』様、貴女は何故ここに来られたのです。この非情をみるだけなのに。
それを知る第3王子殿下は貴女を止めたのでしょう?なのに何故――」

「――トマス」

どうしても言わずにいられなかったのだろう見習い医師だったが、師の王宮医師に名を呼ばれぐっと黙った。

テオを診ていた王宮医師だったが、チヒロに顔を向けると静かに言った。

「……お渡しできるのは『空の子』様。貴女の分の、一本のみです。
それ以外持っておりませんし、持っていたとしてお渡しすることはできません」

「どうかわかって下さい」と王宮医師は締めくくる。

チヒロにも、もうわかっているのだ。

死病の患者がいる部屋に入ったというだけですぐに特効薬が渡された自分。
すでに死病に罹り虫の息だというのに特効薬を飲むことが許されないテオ。

自分とテオの間には身分という、歴然とした差があることを。

だが…………どうしようもないことだ。

目の前の二人とて医師なのだ。命の選択は辛い。

長い沈黙の後。

チヒロは俯いて、わかった、と言った。

「良くわかった。――ありがとう」

「トマス」と、王宮医師は見習い医師を再び呼び、二人でテオの診察をはじめた。

ドアの外に集まった者、全員が項垂れている。
侍女が目頭を押さえた。
動く者はいない。音もない。

チヒロだけがゆっくりと歩きだした。
見習い医師の後ろを通り、王宮医師の後ろを通り。
横たわるテオの枕元に行き、座るとテオの額を撫でた。

「ごめんね」

それを聞いた医師二人は思わずだろうか。うつむいた。



いつの間に蓋を開けていたのだろう。
チヒロは一気に薬を飲む。瓶を捨てる。

そしてテオを抱き起こした。

「―――っ『空の子』さまっ!」

察した見習い医師の悲鳴が響く。


口づけられた瞬間、テオの手がわずかに動いた。
しかしそれ以外、全く反応はなくチヒロも離さない。

そうこうするうちに口移しで与えられた薬液が通ったのだろう。
テオの喉がゴクリと動いた。

ゴホッと咳き込んだテオを見て、チヒロが今度は労るようにその背中をさすり、落ち着いたのを見てゆっくりと寝かせた。

見習い医師はぶるぶると震えている。

「あ、貴女はっ!なんて事をっ!!」

「ごめんなさい!」

チヒロは立ち上げると見習い医師に向け、頭をぺこりと下げる。

「怒らないで。ごめんなさい。見てたでしょう?ちゃんと飲んだわ」

そして勢いよく顔をあげると言い切った。

「ただ、あまりの不味さに吐いちゃっただけよ」

その場にいた全員、あいた口が塞がらない。

一足先に我に返った見習い医師は叫んだ。

「――そんな屁理屈が通るとお思いかっ!!!」


チヒロは大きく息を吐いた。
そのまま今度は頭を深く下げる。

「ごめんなさい。わかっています。自分の罪は認めます。罰も受ける。
――私はどうすればいい?牢屋に行けばいいのかな」

ザッと音がした。

見習い医師が振り向き、それまで見えていなかった人間を認めて怯んだ。

ドアの外にいた屋敷の人間が部屋の中へ入り、全員でドアを塞ぐ様に立っていた。



※※ 補足です

後の方の話で出てきますがテオには意識がありました。
意識のない人に何か飲ませるのは危険行為です。
マネしないでくださいねー。これはお話ですよー。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話

yuzuku
ファンタジー
ベランダから落ちて死んだ私は知らない森にいた。 知らない生物、知らない植物、知らない言語。 何もかもを失った私が唯一見つけた希望の光、それはドラゴンだった。 臆病で自信もないどこにでもいるような平凡な私は、そのドラゴンとの出会いで次第に変わっていく。 いや、変わらなければならない。 ほんの少しの勇気を持った女性と青いドラゴンが冒険する異世界ファンタジー。 彼女は後にこう呼ばれることになる。 「ドラゴンの魔女」と。 ※この物語はフィクションです。 実在の人物・団体とは一切関係ありません。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

竜帝に捨てられ病気で死んで転生したのに、生まれ変わっても竜帝に気に入られそうです

みゅー
恋愛
シーディは前世の記憶を持っていた。前世では奉公に出された家で竜帝に気に入られ寵姫となるが、竜帝は豪族と婚約すると噂され同時にシーディの部屋へ通うことが減っていった。そんな時に病気になり、シーディは後宮を出ると一人寂しく息を引き取った。 時は流れ、シーディはある村外れの貧しいながらも優しい両親の元に生まれ変わっていた。そんなある日村に竜帝が訪れ、竜帝に見つかるがシーディの生まれ変わりだと気づかれずにすむ。 数日後、運命の乙女を探すためにの同じ年、同じ日に生まれた数人の乙女たちが後宮に召集され、シーディも後宮に呼ばれてしまう。 自分が運命の乙女ではないとわかっているシーディは、とにかく何事もなく村へ帰ることだけを目標に過ごすが……。 はたして本当にシーディは運命の乙女ではないのか、今度の人生で幸せをつかむことができるのか。 短編:竜帝の花嫁 誰にも愛されずに死んだと思ってたのに、生まれ変わったら溺愛されてました を長編にしたものです。

親友面した女の巻き添えで死に、転生先は親友?が希望した乙女ゲーム世界!?転生してまでヒロイン(お前)の親友なんかやってられるかっ!!

音無砂月
ファンタジー
親友面してくる金持ちの令嬢マヤに巻き込まれて死んだミキ 生まれ変わった世界はマヤがはまっていた乙女ゲーム『王女アイルはヤンデレ男に溺愛される』の世界 ミキはそこで親友である王女の親友ポジション、レイファ・ミラノ公爵令嬢に転生 一緒に死んだマヤは王女アイルに転生 「また一緒だねミキちゃん♡」 ふざけるなーと絶叫したいミキだけど立ちはだかる身分の差 アイルに転生したマヤに振り回せながら自分の幸せを掴む為にレイファ。極力、乙女ゲームに関わりたくないが、なぜか攻略対象者たちはヒロインであるアイルではなくレイファに好意を寄せてくる。

どんなあなたでも愛してる。

piyo
恋愛
遠征から戻った夫の姿が変わっていたーー 騎士である夫ディーノが、半年以上の遠征を終えて帰宅した。心躍らせて迎えたシエラだったが、そのあまりの外見の変わりように失神してしまう。 どうやら魔女の呪いでこうなったらしく、努力しなければ元には戻らないらしい。果たして、シエラはそんな夫を再び愛することができるのか? ※全四話+後日談一話。 ※毎日夜9時頃更新(予約投稿済)&日曜日完結です。 ※なろうにも投稿しています。

白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

処理中です...