この幸せがあなたに届きますように 〜『空の子』様は年齢不詳〜

ちくわぶ(まるどらむぎ)

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998年目

20 凪 ※空

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 ※※※ 空 ※※※



「チヒロ様。テオが」

シンの声に、チヒロは弾かれたように振り返りテオを見た。
チヒロの目に、テオに纏わりついていたシミはもう見えない。

「テオ」

テオは泣いていた。
チヒロはテオの涙を、そっと手で拭いてやりながら言った。

「テオ。良かった。でも泣いては駄目。熱が上がるわ。苦しかったね。
もう大丈夫。私が手伝うから治そう。
――シン。私、しばらくこの屋敷でお世話になりたい。いいかな」

話を振られたシンは諦めたように言った。

「駄目だと言ってもそうされるのでしょう?」

チヒロは笑うと、今度は王宮医師に言った。

「私の看病は自己流なので、この国のものと違うかもしれません。
駄目なところがあったら教えて欲しいのですが」

チヒロは王宮医師に自分の看病の仕方や理由を説明し、反対に王宮医師のやり方も聞く。

かなりの違いがあったようだ。
チヒロの看病の仕方を聞いていた屋敷の者達も、お互いの顔を見合わせている。

すると見習い医師がチヒロに向かって跪いた。

「『空の子』様の看病される様子を見届けさせていただけないでしょうか」

チヒロは驚いた。
見習い医師の目に涙があったからだ。

チヒロが知るはずもなかったが、見習い医師は平民の出で、知力を見込まれ貴族の養子になった者だ。

弟を同じ死病で亡くしている。
医師を志したのも弟のことがあったからだ。

見習い医師の境遇を知る王宮医師は弟子と共にチヒロに許しを請う。
チヒロはシンに判断を任せシンは見習い医師が屋敷にとどまることを許可した。

その後、

屋敷の者はみんな笑顔でチヒロに挨拶し、テオに声をかけ仕事に戻っていった。
セバスもそっと部屋を後にした。

テオは今、まだ熱は高いが呼吸は落ち着いて、よく寝ている。

部屋には医師二人とエリサとシン、そしてチヒロがいる。

「それにしても本当に無茶をなさる。
意識のない者に液体を飲ませるのは非常に危険な行為です。
今後二度となされませんように」

「はい。もうしません。ごめんなさい」

王宮医師に苦言を呈されチヒロは深く頭を下げた。
それを見て見習い医師が言う。

「ロウエン先生。
『空の子』様に抱き起こされてテオ君は手を動かしましたし、薬を飲まされた時にはうっすらとですが目を開いたように見えました。
あの時、意識はあったと思われます。お許しになられても……」

「トマス。テオ君に《奇跡》がおきて喜ぶ気持ちはわかるが、それでも運が良かっただけだ。
上手く喉を通らず大事に至った者をこれまでに何人見た」

「あ……も、申し訳ありません」

チヒロは医師たちの顔を交互に見ると、聞いた。

「……薬は飲む以外ないのですか?」

医師らは顔を見合わせた。

そして王宮医師が逆にチヒロに問う。

「それ以外にどんな方法が?」

チヒロは手を口元にあて目を閉じた。

「あの……注射とか点滴とか……。あとは吸入器とか」

「……お言葉がよくわからないのですが。
つまり『空の子』様は飲ませる以外にも患者に薬を与える方法があると?」

「その。《昔》の話です。
そういう治療を見たことも受けたこともあります。
ですが私は医師――治療する側ではなかったので詳しい技術は分かりません。
飲み薬をそのまま使ってできる方法ではないと思いますし……」

王宮医師が感極まったように言った。

「――素晴らしい」

「え?」

「『空の子』様。貴女が目にし受けたというその技術を教えていただきたい。
もちろんお分かりになる範囲で結構です。
それを足掛かりに私たち医師が探りましょう。
新しい治療法を。
ああ、他にも治療法など目にされたものがあれば是非教えてください!」

お願いしますと王宮医師に頭を下げられ、チヒロは困惑している。

「あの。それはいいんですけど。
私が王宮に帰ってからでいいですか?
すぐにちゃんと思い出せそうにはないですし。
――あ、それにまずはレオンに許可をもらわないと」

シンがため息を吐いた。

「良いと言う前に。いえ、《昔》の話をされる前に思い出して下さい。
気付くのが遅いです、チヒロ様」

「ごめんなさい……」

チヒロの頭はまた下がったが、すぐに上がった。

「それで。今は死病について、詳しく教えていただけませんか?」

チヒロに請われ王宮医師が死病について語る。

滅多に罹る病気ではないこと。

しかし罹ると突然高熱が出て意識を失い、数日でそのまま死に至ること。

そして、罹った者の身体には必ずどこかに小さな傷があることだと語った。

テオの傷は左手の人差し指。
自分にだけ見えたシミの、最も濃い部分が傷だったことの理由をチヒロは考えているようだ。

誰にも聞き取れないほどの小さな声で
「病気の原因はその傷にあるんだわ」と呟いた。

ただその傷は、虫に刺されたものか、どこかで切ったものか。
特効薬を飲み助かった患者に聞いたが全員が全く覚えがないというのでわからない、と告げられると肩を落とした。

王宮医師は特効薬の話もした。

世界でただ一国。
死病の特効薬を作っている国は、独占したくて世界で唯一の国になっているわけではない。

独占し続け、莫大な富を得たくとも世界中が望む量など作れないのだ。

むしろ大国でもないその国は、特効薬を産む唯一の国であることで他国から攻められ滅ぶことを危惧していた。

それで特効薬の処方を世界に伝えているのだが、材料となる植物が一つだけ。

何故かその国でしか育たず、長時間の輸送もできない為に、現在は特効薬を産む唯一の国となっているのが現状であった。

その植物の苗か種を手に入れたいが、それは難しいという。

既に世界中に望まれ各国に大量に渡したことで、これ以上の譲渡は特効薬の作成に影響が出てしまうと現在は断られている、と。

チヒロはしばらく考えると、なら……と聞いてみる。

「この国にかわりになりそうな植物はないのでしょうか?」

王宮医師は険しい顔で言う。

「私たちも調べているのですが。なかなか調べが進みません。
国全体を調べるのが難しいのです。
調べに行かせる医師の数も足りないのですが。
何より国の所有する土地は調べられても、貴族の所有する土地は。
王が命令してもなかなか。調査の許可が……」

貴族と呟くとチヒロは一旦、目を伏せて。
そして再び目をあけると言った。

「……では『空の子』が植物を欲しがっている、と言ったら?」

王宮医師と見習い医師が顔を合わせる。

「『空の子』が珍しい植物を欲しがっていると聞いたら、貴族の皆さんは《好意》で王宮に持ってきてくれないでしょうか?」

王宮医師がううむ、と唸った。

「……われ先にと持ってくるでしょうね。大量に」

チヒロが人差し指をたてた。

「もしかしたら《研究費》もつけてくれるかもしれませんよ?《好意》で」

医師二人とチヒロは笑顔で手を握りあった。
が、シンとエリサは渋い顔をしていた。

薬ではない。ただの植物だ。

窓口になるのは確実にレオンだ。

主人の苦労を思ったのだろう。


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