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998年目

24 仁眼 ※チヒロ

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 ※※※ チヒロ ※※※



なんだか本当に宇宙人になった気分だ。

いやいや。生まれ変わったら人間じゃないって。
それはあり得ないよね。

だけど。

特別な《高い知識》を持ってやってきた歴代『空の子』の先輩たちと違って、《知識なし》の私には、何故か変わったオプションがついていたらしい。

当たり前だけど、前世の《私》が持っていたものじゃない。
持っていたものならテオの死病が《見えた》時、驚いてないし。

と、いうことは今世の。今のこの身体についている《能力》ってことよね。
えっと、『仁眼』と……あと『全語』?

この世界の人たちや歴代の、男の子の『空の子』の先輩たちにはない。

昔の、貴人と呼ばれた女性の『空の子』たちと私にだけある《能力》。

なんなの『空の子』って。

どういう仕組みなの?

本当によくわからない。

説明書が欲しいわ。

……って、『空』に言えたらな。

まあそれはいいとして。

さて。

とにかく、『仁眼』と『全語』。

『全語』と言うのは王宮医師のロウエン先生ですらよくわからないと言うの
だから放っておくしかない。

では『仁眼』について。

病の色が見え、病と同じ色の薬を作ることができる目?

確かに、私にはテオの死病の色が見えたし、薬の色も見えている。

病はシミに、薬は光に見える。

でも、それで薬が作れる?

いや。それは無理だよ。

―――まさかまた『空の子』だからって、期待されてる?それは困る!!

恐る恐る聞いてみる。

「あの。ロウエン先生。
古代の貴人たちと同じ『仁眼』があるのなら、私にも薬が作れるんじゃないかと思ってますか?
私は無理だと思うんですけど……」

それは、できたら嬉しいけれど。

「薬は植物を何種類か調合して作るんですよね?
そんな知識、私にはないんですけど……」

私は前世、医者だったわけでも薬剤師だったわけでもない。
それにこの世界の植物は、前世いた世界のそれとは全く別物なのだ。

料理だって全てが未知の野菜で作るのは難しいかな、と諦めたくらいなのよ?
(まあ王宮の厨房は立ち入り禁止だというのが一番の理由だけれど)

なのに薬って……もっとレベルが高い。高すぎる。

ロウエン先生は何も言わず奥の部屋へ行くと、何かの植物を一束と小さな薬瓶を一本持ってきた。

私はまた目を疑った。
植物は薬瓶と同じようにほのかに光っていたのだ。

「―――白いです!」

思わず叫んでしまった。

ロウエン先生は笑いながら持ってきた植物と薬瓶を机の上に置く。
私は机にかじりつくようにして植物と薬瓶を見比べる。

あれ?
同じ白い光だけど色味が違う?

答えを求めるようにロウエン先生を見れば、先生は微笑んだ。

「どちらも白色に光ってはいても、全く同じ色ではないのでしょう?
この薬はこの植物と、他に6種類。合計7種類の植物を使ってできています。
その7種類の植物を混ぜて、薬瓶の光と同じ色にすることが出来ればチヒロ様にも同じ薬が作れるのではないでしょうか?
植物の配合を知らなくても可能と言えば可能でしょうな」

―――同じ色を作れって、絵の具じゃあるまいし

突っこみたくなった。

簡単に言うけど、7種類の植物を混ぜてこの薬の光と同じ色を作る、って……。

「……それ、植物の調合を知って作るより遥かに難しい作業だと思いますけど」

「そうでしょうな。薬というのはそういうものです」

ロウエン先生はあっさり言って大笑いした。

「『仁眼』があれば確かに薬は作れるかもしれない。
しかし完璧な薬を作り出すのは不可能に近いと思います。
その証拠に、ここにある薬はどれひとつとして古代と同じ物はない。
『仁眼』を持つ古代の貴人たちが作ったとされる物はひとつもないのです」

「―――」

「ここにあるのは、全て医師が作ったもの。
古代から今日まで、数多の医師が気の遠くなるような年月をかけ、改良に改良を重ね、より良くと作りあげてきた薬なのです」

そうか。

『仁眼』があると知って自惚れてしまったみたいだ。

そうだよね、薬を作るのは誇りある医師の仕事だ。

ならば。

「死病の特効薬も作って貰えますか?」と聞こうとして首を振った。

医師たちはもうとっくに挑戦しているに決まっているのだ。
それこそ数多の医師が。気の遠くなるような歳月をかけて。

「死病の特効薬を作るためのお手伝いをさせて貰えませんか。お願いします」

私はロウエン先生にむけて
その後ろにいる数多の偉大な医師たちにむけて、深くお辞儀をして許しを請う。

手伝わせて欲しい。

『仁眼』とは、病の色が見え、病と同じ色の薬を作ることができる目?

ううん。

病の色が見え、その病の薬となる可能性のある植物を探せる目だ。

この目が少しでも役に立つのなら。
一秒でも早く死病の特効薬が作り出してもらえるのなら。

ロウエン先生は私の手を取って笑ってくれた。
私は胸がいっぱいになる。

よくわからないオプションだけど、『空』が私につけてくれたことに感謝しよう。


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