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998年目

25 模様 ※レオン

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 ※※※ レオン ※※※



「第3王子殿下レオン様」

話を終え、南の宮へ戻ろうとしていたところだった。
チヒロとエリサはすでに扉を出て、少し離れたところにいる。

僕を呼び止めた王宮医師は小声で言った。

「……今日こちらへ皆様がいらっしゃったことは王宮全体に、すぐに知れ渡るでしょう。
集めている植物のこともあります。
ここを管理されている《西》の方に『空の子』様が薬に興味を持たれていると気付かれるのもじきでしょう。
私としましても、問われればお答えしないわけにはいきません」

「ああ、そうだろうね」

「もちろん正しい情報をお伝えせねばなりません。
不確かな報告をするわけにはいきませんので、夢物語のような『眼』の話は私の心にしまっておきます。
ですが。
御用心なさってください」

僕は苦笑した。

「ロウエン。―――王宮最高医師がそんなこと言っていいの?」

ロウエンはうやうやしく頭を下げると言った。

「私は『空』と共に」


「レオン。戻らないの?」

振り向くと、先に扉を出たチヒロが不思議そうな顔をしている。

「今行くよ」と返事をして、僕は医局を後にした。シンも続く。

王族の暮らす《宮殿》に帰るために選んだのは広い通りではなく、抜け道となっている狭い廊下だ。

片方は格子の入った縦細の窓が並び、もう片方は壁だ。
真ん中にいくほど高くなっているアーチ型の天井と、壁の一部にレリーフが入っている程度の中央の中では簡素な作りの場所。

しかしチヒロは興味津々らしく、目を輝かせてあたりを見回している。

そんなにぐるぐる見ていると目をまわしますよ、とエリサに注意された。
が、案の定、目をまわしたらしく足をもつれさせエリサに助けられた。

エリサに呆れられ、えへへ、と恥ずかしそうに笑う。

その様子は単なる子どもだ。


―――しかしその目には『仁眼』。


あの儀式を思い出す。


バカバカしい。

何が『空』だ

何もできないくせに

助けてなどくれないくせに!

――叶えられるものなら叶えてみろ!


そう僕は『空』に喧嘩を売った。

その僕に『空』は『空の子』を降ろした。

たがが人間の分際で『空』に喧嘩を売ったことを悔やみ心を改めろというのか。
苦しみ散々、足掻いてから消えろ、ということなのか。

どういう意図があったのかは知らないが感謝する。
僕に『チヒロ』をおろしてくれたおかげで僕は奴を挑発できる。

今日、僕たちが医局を訪ねたことも
『空の子』が薬に興味を持っていることも

奴は《護衛騎士》から聞いて近々知るだろう。

《仕組み》は出来上がった。
後はその時が来たらまわすだけ。

さあ。どんな模様が見えるかな。

《西》の異母兄あに上どの。

もうすぐだ。

もうすぐお前の望み通り消えてあげるよ。

お前とそして
僕を《南》に捨てた男を道連れにしてね。

幼いあの日から思い描いていた未来をもうすぐ実現できる―――。


拳をつくる。

そのまま息を整える。

僕は笑顔を作ると歩き出した。


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