この幸せがあなたに届きますように 〜『空の子』様は年齢不詳〜

ちくわぶ(まるどらむぎ)

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998年目

29 近衛隊長 ※エリサ

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 ※※※ エリサ ※※※



「――というわけで、私には前世の記憶があるのです」

チヒロ様は全部、話した。
南の宮からは見えにくいようにと、南の宮に背を向け座った木の下で。

チヒロ様の目の前には
「見つからないように、ここに座って話そう」
と入れ知恵した熊のような男がちんまり座っている。

木で隠れきれてるのか、その身体。

熊のような隊長は顎に手を当てたまま聞き入っていたが、最後に「なるほど、それが『空の子』の仕組みか」と言った。

「それにしても前世か。生まれ変わりはあるんだな」

「それ、私も自分がこうなって初めて知りました。びっくりですよね。
多分、生き物って昔からずっと生死を繰り返しているんでしょうね」

チヒロ様の声は弾んでいる。

……さっきまで警戒していた隊長に、すっかり心を許してる。
きっと甘党の隊長からクッキーを貰ったからだろう。

ひとり私は膝を抱えていた。うう、泣きそう。

「もうレオン様や副隊長に顔向けできません……」

「何言ってるの、エリサ。
私は別に隊長さんに知られても構わないよ。だから全部話したの」

「……チヒロ様。レオン様に前世の話は秘するよう言われたのをお忘れですか」

「隊長さんに国王様以外には言わないでねってお願いすれば平気よ」

「………なんで国王様以外なんですか」

「国王様には知られても平気だから」

……もうだめだ。本当に涙が出てきた。

「私のせいです。私のせいで。レオン様にも副隊長にも了解を取らず……」

「別にいいじゃない。
国王様はレオンのお父様だし、隊長さんはシンの上司でしょう?
どうして落ち込むの?」

「そうだぞ、エリサ。いいじゃないか」

この熊野郎。にたにた笑うな!わかってるくせに!

チヒロ様は訳がわからないこの状況を、教えて欲しかったんだろう。
私は駄目だと判断して、隊長に顔を向けた。


そうだ、アンタも困ればいいのだ!熊隊長!


隊長は頭をかきながら言う。

「その……第3王子殿下と国王陛下はちょっとばかし仲がおよろしくないので」

「え?父子なのに?どうして?」

「ええと。王妃様の話はご存知で?」


―――うおう!!この熊、とんでもないことを!!


「王妃様?」

誤魔化そうとする前にしっかりチヒロ様が食いついてしまわれた。

気付いたのだろう。隊長の顔色が変わった。

ざまあみろ!とも思ったが、同時に自分も終わったと気付く。

ああ、、もう絶対レオン様にも副隊長にも許してもらえない……。

目の前が真っ暗になった。


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