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998年目
31 王太子夫妻 ※空
しおりを挟む※※※ 空 ※※※
チヒロは先に接待室へと戻って行った。
私室では王子のむつきを王太子妃が手慣れた様子でかえている。
王太子が寝かされてむずかる王子をあやしながら妃に聞いた。
「チヒロに伝えなくて良かったのかい?貴女とレオンの母上は従姉妹だと」
「ええ。伝えても伝えなくても私は私ですから。
それに、それは私からではなくレオン様からチヒロに伝えて欲しいのです」
「そうだね、その方がいい。
しかし……第2王子とレオンの確執の話はしておいた方が良かったのでは?」
「それは不要でしょう。
チヒロは第2王子殿下のことは何も言いませんでした。
国王陛下とレオン様の確執を知ったのなら、彼のことも聞きそうなものなのに。
……きっとレオン様と第2王子殿下の関係に、うすうす気付いているのでしょう。
あの子はどうするかしら。
私は楽しみで仕方がありませんわ」
むつきをかえられた王子が手を伸ばす。
王太子が抱き上げ、手を清めている王太子妃に笑いかけた。
「本当にチヒロが気に入ったんだね」
「ふふ。『空の子』殿と懇意になろうという打算があったのは会うまででした。
会った瞬間、私はチヒロが大好きになりましたの。
今やあの子が『空の子』なのを忘れるくらいですわ」
「……やはり《そう》だと思うのかい?」
「ええ。不思議ですけれど。……わかるのです。
……ですが《それ》とは関係なく、私は『チヒロ』が大好きなのです。
ずっと一緒にいて、あの笑顔を見ていたいと思うほどに」
「はは、チヒロは息子である王子より貴女に溺愛されているようだ」
王太子妃は王太子の腕の中にいる我が子の頬を撫でた。
「欲を言うならばこの子の妃になってくれたら、と思いますが……」
「《黄金の獅子》が《南》から出しはしないだろうね」
「ふふ。《南》には《銀の狼》もいますわよ?」
「――ああ、《銀の狼》ね。はは、思い出した。あれは面白かったな」
「《お待たせ。ただいま》でしたものね」
「そうそう。ははは。
あの日、初めてこの《東の宮》を訪れて。チヒロ殿は緊張していたのだろう。
その緊張が、お茶会が終わったので解けてつい出たのだろうね」
「そうだったのでしょうね。緊張しているようには見えませんでしたけれど」
「《銀の狼》が《お帰りなさい》と返事をしたのにも笑ったな。
チヒロ殿に突然妙なことを言われて面食らったのだろうが。
彼のあんなに困惑した表情は初めて見た」
「彼の隣にいた近衛隊長など吹き出していましたよ。
私も笑いをこらえるのに必死でした」
「私もだったよ。チヒロ殿は本当に楽しい方だな。
《南》は彼女を得て陽がさす様に明るく、あたたかくなっていることだろうね」
「ふふ、そうでしょうね」
両親につられて王子も笑う。
王太子がその額にそっと口付けを贈る。
「君もチヒロ殿が大好きなようだが。彼女が成人するまであと7年しかない。
分が悪いね。残念だが君の初恋は諦めるしかないかな。
彼女が君のもとに来てくれたなら、君も国も安泰なのに」
「あら、そうでなくとも安泰ですわ。貴方がいらっしゃるのですもの」
「そう言ってくれるのは貴女だけだよ。私は自分の情けなさはよく知っている」
「ご自分の良さに気がついておられないだけだと、いつも申し上げておりますのに。
王に必要なのは敵を作らないこと。
気位の高さなど邪魔なだけです。
善政であっても独裁は後継者を育てません。
――その点、貴方は素晴らしい。
素直に人を褒め他の意見をお聞きになる。
そして今の王家でそれができるのは貴方のみですわ」
「貴女に褒められると本当にそう思えてくる。
素晴らしいのは貴女だ。
王太子妃としての役割だけでなく、私も、私の執務も支えてくれる。
私たちは王太子と妃という立場を入れ替わった方が良さそうだといつも思うよ」
「まあ、やめてくださいな。この子をこの身で育み産めた。
そしてチヒロという女性の『空の子』がやってきた。
私、今ほど自分が女性で良かったと思うことはありませんのよ」
「そうなのかい?」
「男性であれば彼女に自分を選んでもらわなければならない。
でも女性の私はチヒロが誰を選ぼうと全く関係なく側にいられるのですもの。
ふふ。ずっと離れないわよ、チヒロ」
「おやおや。私と息子のことも忘れないで欲しいな」
「あら」
三人の笑い声が響いた。
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