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998年目

32 閑話 親友へ ※アイシャ

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 ※※※ アイシャ ※※※



ずっと一緒だった。

エリサは私に何でも話してくれた。

一番多かったのは《あの男》のこと。
今日はこう言った。前はこう言った。その前は――と延々と聞かされたっけ。

よく全部覚えているな、とむしろ感心してた。

そして最後はいつも
「あんないけすかない男が何で近衛騎士なんだ!」と叫んで終わり。

何度聞かされただろう。

絶対に見返してやるのだと息巻くエリサの訓練に何度付き合わされただろう。

《あの男》がエリサを揶揄う理由なんて誰が見ても明らかだったけれど。
私はそれをエリサに告げない方がいいと判断してただ一緒に訓練し続けた。

それでも男女の差は大きくて。
騎士に相応しいとなかなか認められず、二人で何度涙しただろう。

お互いの、それまでの境遇も語り合った。

ただ生活を楽にしようと給料の良い近衛騎士になることにした平凡な私は、たいして話すことはなく、エリサの話を聞いているだけだった。

父親が早くに亡くなり、おばあちゃんとずっと二人で暮らしていた話。

そのおばあちゃんが亡くなって下位貴族の後妻に入っていた母親を頼るしかなくなった話。

「いずれどこかの貴族に嫁いで役に立て」と言われたことに反発して、母親の目の前で髪を切り、絶縁されて騎士の道を志した話。

近衛騎士候補生になった途端にやってきた母親が、こともあろうに副隊長に「娘を妻にどうか」とのたまったので、怒りに震えた話。

その時、副隊長が
「その発言は王族方を護る近衛騎士になろうという者への侮辱だ」と一喝し

それに感銘を受け、副隊長の隊に入りレオン様の初の女性護衛騎士になる、と決めた話。

近衛騎士になれて。
念願の副隊長の隊に入って。
そしてレオン様の初の女性護衛騎士になれて。
どれだけ嬉しいかという話。

なのに『空の子』様の専任護衛を命じられ、一時でも《不本意だ》と思ってしまったことを未だに悔やんでいる話。

チヒロ様の《盾》となると決めたことも。
決心するに至った経緯ーー副隊長の屋敷で起こったことまで全部話し、教えてくれた。


――― エリサは全部、私に話してくれた ―――


なのに…………ごめんね。

私はエリサの半分も言っていない。

彼のことも、エリサに気付かれるまで《ただの幼馴染》で通していた。

生活を楽にしたくて騎士になることを選んだのは本当だけど、近衛騎士を選んだのは彼と同じ王宮にいたいという気持ちがあったから。

近衛騎士になれなかったら侍女を目指そうと思っていたことも言ってない。

そして今はもっと言えないことが増えてしまった。

私が、チヒロ様には前世の記憶があると知っていること。

夫が《王家の盾》であること。

私の家は、王都ではないこと。

そしてまたもうひとつ―――――。


ずっと一緒に頑張ろうねと誓い合った。

けれど私は剣を置く。
最後にひとつだけ打ち明けて私は別の道を行く。

貴女と一緒はここまでになる。

約束を破ってごめん。

責めてもいいよ。

でもエリサ。それでも……お願いよ。


この子のことだけは、喜んでくれる?


「アイシャ、どうしたの?改まって話ってなに?」

ずっと一緒だと思っていた親友の声。

私は笑って
そっとお腹に手をやり言葉を紡ぐ

この幸せが、ちゃんと貴女に伝わるようにと祈りながら―――――。


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