上 下
100 / 197
999年目

24 お手柄 ※エリサ

しおりを挟む



 ※※※ エリサ ※※※



「エリサさん!お手柄です!!」

「――――え?」

何を言われたのかわからなかった。
お手柄?

「そうですね。この虫は多分、傷から出るか入るかしているのでしょう」

ロウエン先生が言う。
え?私が言ったやつ………あたり?

私はまたあの虫の気持ち悪さを思い出して腕をさすった。
うう。見なきゃ良かった………。

「……映画で見た、あの宇宙から来た奴みたい」

チヒロ様が呟いた。

《エイガ》?《ウチュウ》?
やはりチヒロ様の言葉はたまにわからない。

不思議な言葉に、私と医師二人の目がチヒロ様に集まる。

それを感じたのか、チヒロ様は慌てて言い直した。

「気にしないでください。あの。卵で入って、人間の体内で孵る。
そして成虫になったら人の身体を破って出てくる、ってことはないですか?」

―――うわあああああああっ!!チヒロ様!なんて気持ちの悪いことを!!

「……なくはないですが。
卵だと同時にいくつも身体に入る可能性がある。
このくらいの虫なら一度にたくさんの卵を産む可能性が高いですからな。
卵で人の身体に入り、孵化して虫となり人間の身体を破って出るなら
人の身体には複数の虫により傷がいくつも残されるでしょう。
それでは《傷はひとつ》という死病の特徴と合いません」

ロウエン先生の言葉に私は卒倒しそうだった。

「卵じゃない。――なら。
この姿が幼虫か成虫かはわかりませんが。
水の中にいて透明で、しかも動きが鈍い虫です。
ロウエン先生がはじめに言われたように、人間の身体に入るのならこの姿で人間に飲んでもらうのが一番簡単で確実ですよね。
この姿で水と共に人間の身体に入る。
そしてチヒロ様の言うように人間の身体を破って外に出る。
外に出る時に破られた傷が、死病の特徴である小さい傷。
その可能性が一番高いのではないでしょうか」

と、トマスさん。

「そうだな。……人間の排泄器官を使って出そうなものだが。
死病に《小さな傷がひとつ》あり、しかもその傷が《身体の中で一番毒が多い》という特徴がある以上、傷を使うのは間違いない。
そしてそれは人間に元からある傷を使うとは考えにくい。
虫が人間を傷つけて出てくるのだろう」

と、ロウエン先生。

もうやだ。聞きたくない。あの気持ち悪い虫についての会話。泣きそう……。

それなのに。ふと思いついたようにロウエン先生は続けた。

「しかし人間は傷つけられたことに気が付かない。痛みがないと言うことだ。
すると、虫は人間の身体を溶かして出てくるのかもしれない……!」

―――ああああっ!ロウエン先生!やめてください!

「溶かして?」

チヒロ様が聞く。

「この虫は水と一緒に飲まれて人間の身体に入る。
そして人間の身体を毒で溶かし、傷を作って外に出る。
虫に残された毒に侵された人間が死病に罹る。
仮説ですが、その可能性が高いかと」

「ああ、それなら小さい傷が『仁眼』で一番黒く見えるのもわかります!
毒が残された場所だということですよね!」

―――やった!虫の話は終わった!

私が考えられたのはそれだけだった。


しおりを挟む

処理中です...