この幸せがあなたに届きますように 〜『空の子』様は年齢不詳〜

１０００年目

４３ おまじない ※空

　※※※　空　※※※



「シンのお義兄さん！おはようございます」


良く晴れた出発の朝。

馬車の前にいたチヒロだったが、サージアズ卿の姿を認めてパタパタとかけ寄った。

サージアズ卿の後ろにはコドリッド伯夫妻とその家令。
チヒロの後ろにはエリサと《男》。そしてセバスがいて、サージアズ卿に向かい敬礼をする。

横にきて「昨夜はありがとうございました」
と、他の誰にも聞こえないよう口の横に手をあて小声で言ったチヒロにサージアズ卿は微笑む。

チヒロも笑顔を返した。

「見送りに来てくださったんですか？ありがとうございます」

「そうなのですが。実はお願いもありまして」

「え、お願い？」

サージアズ卿は、首を傾げたチヒロに向かって両手を合わせ祈るような姿勢を取ると、彼女に請う。

「貴女の両手で、私の手を包んでいただいてもよろしいですか？」

「え？」

「ちょっとしたおまじないです。欲しいものが手に入りますように、という。
――『空の子』様にしてもらえたら叶いそうでしょう？」

「おまじない？」

サージアズ卿からの返事はなく、彼はただ微笑むばかり。
チヒロは決心したように小さく頷くと請われるまま手をのばした。

サージアズ卿は首を垂れてそれを待ち、チヒロの白い手が彼の手を包み込む。

「今日よりチヒロ様、とお呼びすることを許していただけますか？」

耳のすぐ側でそう言われ、チヒロは一瞬驚いたようだがすぐに笑顔で頷いた。


その後、チヒロたちは出発し、あとにはサージアズ卿とコドリッド伯とその家令。
そして、王家の盾の現当主が来ていた。

当主はくつくつと笑っている。

「お前。あれはないだろう。あれでは完全に騙しうちだぞ」

サージアズ卿は優雅に微笑むと事もなげに言う。

「なんとでも。なんなく《我が主人》を手に入れました。
褒めていただきたいくらいです」

「次期当主は恐ろしいな。お前たち、よく覚えておけよ」

現当主に言われ、コドリッド伯夫妻と家令は頭を下げた。