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1000年目
48 内緒 ※チヒロ
しおりを挟む※※※ チヒロ ※※※
「また裏庭ですか」
振り向くとそこにはシンとジルがいた。
シンのお屋敷の《ウィバ》畑を見に行こうとしていたところだった。
「だって綺麗なんだもの」
私はシンとジルにかけ寄った。
「おかえりなさい、シン。今日はずいぶん早いのね」
「貴女の護衛です。この屋敷は今セバスをはじめ多忙な者が多いですからね」
「―――え、そんな。私なら平気だよ。大人しくしてるもの」
「ならば屋敷の中で過ごしては?」
「……《ウィバ》畑に日が沈むのをちょっと見に行くだけなのに……」
私は口を尖らせた。
《ウィバ》はこの国の畑で一番作られている穀物でパンの原料。
前の世界で言う麦なんだろうけど、その姿は麦より稲に似ている。
つまり《ウィバ》畑は、見た目まるで田んぼ。
シンの屋敷の裏手にはそんな《ウィバ》畑が広がっている。
王宮の森があり、山々があり、海へと続く川がある場所。
それを見渡せる敷地は平地で、そこに一面《ウィバ》が育てられている。
シンの屋敷の裏庭から見えるその景色は私のお気に入りなのだ。
シンはため息を吐いて言った。
「時間は遅いし、ちょっとでも屋敷の外です。行くなら誰か呼んでください」
「それは嫌。声が出せないもの」
「声?」
私は慌てて言い直した。
「――あ、気分が良くなって鼻歌でもでたら恥ずかしいもん。
一人でのんびり見ていたいの。誰かを付き合わせるなんて悪いし」
「……そうですか」
「うん。ほんのちょっとの時間だし。それは許して欲しい―――」
ずいっと顔を近づけてきたジルと目が合って、笑ってしまった。
「ジルならいいけどね」
ジルを撫でてあげるとジルは私の肩に首を回した。
横でシンが言う。
「旅で何かあったのですか?」
「え?何故?」
「少し《成長》されたようなので」
……言い方!
ちょっとムッとしたけれど、私は笑った。
「いい国だなあー、って思った」
「は?」
「人は生き生きと元気に笑ってて。作物はよく育って。
すごく素敵だった。
それを支えているのは国王様や王太子ご夫妻にレオン。
それに大臣や貴族の皆さん。
《王宮》にいる人たちなんだよね。
すごい人たちといるよね、私」
「…………」
「私も何かしたいな。ううん。しようと思う」
「……何をするのですか」
「……まだないしょ」
「……内緒にできると思っているのですか。
準備にどのくらい時間がかかるかおわかりでしょう?」
私は首を振った。
「そうじゃなくて。あのね。
――この世界で唯一、死病の薬を作る国へ行きたいの。
死病の特効薬を完成させたいし。
他にもね、託児所ももっと広げていきたいし。
テオに私の頭の中にある物をもっともっと伝えたい。
全ての言葉が理解できる『全語』の能力を活かして通訳や翻訳の仕事もしたい」
「全部する気ですか……」
「うん」
「それはまた……」
歯切れの悪い返事。
私は頬を膨らませた。
「難しいかもしれない。けど、やってみたいことがたくさんあるってこと。
でも誰にも言わないでね。まだ考えてる途中なんだから」
「―――誰にも内緒ということですか」
「え?――うん。内緒ね」
シンは少ししてから何故か笑顔で言った。
「―――了解しました」
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